故きを温ねて、新しきを知る
「本村家プロジェクト特別ツアー」
家プロジェクトは直島・本村地区において展開するアートプロジェクトです。
「在るものを活かし、無いものをつくる」をコンセプトに家プロジェクトの活動が始まり四半世紀以上。直島や本村地区のあり方は少しずつ変わり続けてきました。
2025年5月には同じエリアに直島新美術館が開館し、本村地区は新たな展開を迎えます。今、改めて本村地区における家プロジェクトの変遷を振り返り、未来へ繋ぐべき価値は何かをお客様や島民の方とともに考えるツアー「ベネッセハウス パークに泊まる2日間 本村「家プロジェクト」をめぐる温故知新の旅」を実施しました。今回はその様子をお伝えします。
「家プロジェクト」を紐解くレクチャー
ツアーの始まりは本村の「過去」を知るところから。本村「家プロジェクト」の始まりと、集落や島民にアートが近づくきっかけとなった「スタンダード展」の背景、そして地域にとってアートがどのような役割を担ったかを振り返りました。伝統的な集落としての文化や本村の歴史を学び、そこにアートがどのように介在し島民の方々と一緒にベネッセアートサイト直島の活動が続いてきたかを知ることで、作品や場が持つ意味について考えるきっかけを皆様と共有しました。

特別な夜の時間、特別な空間へ
日が暮れると、本村の集落は昼間とは異なる表情を見せます。
このツアーのために企画された家プロジェクト「石橋」の夜間鑑賞では、和ろうそくの柔らかな灯りの中、千住博氏の作品が静かに浮かび上がります。伝統的日本家屋の中で、ゆらめく和ろうそくの光が溶け合う幻想的な時間を体験していただきました。
石橋は明治時代に製塩業で栄えていた家屋です。直島では土器製塩に始まり、「塩」は人々の生活を支えてきた存在でした。かつては島内でも有数の大きな家だった石橋家は、大きな母屋とそれに続く内倉、庭から入る外蔵の空間があり、豪商の家としての文化的景観の象徴でもあります。
この建物の再建は「場のもつ記憶」を空間ごと作品化する試みでもありました。2006年の「直島スタンダード2」展の際に、千住博氏に作品制作を依頼したことが、現在の展示へとつながっています。
この時間帯だからこそ生まれる幻想的な空間。冬の冷たい空気の中、移りゆく時間の変化とともに、静寂の中で作品を鑑賞していただきました。


普段は入ることのできない空間へもご案内しました。製塩業時代に事務所として使われていた部屋です。ここでは、本ツアーオリジナルの和菓子と、甘酒、抹茶、柚子、生姜、竹炭など和の食材を使用したノンアルコールカクテルを空間とともに味わう、特別なひとときを過ごしていただきました。
「決して入る事のない場所に身を置くと、なぜか知る由もないけれど、記憶を可視化したような感覚を覚えました。(お客様の声より)」


人と繋がるひととき
このツアーでは、お客様に島民やスタッフと交流していただくことも大切な要素の一つとしました。
ツアーの2日目には、小さなお茶会を開催しました。直島に長く暮らす方、新しく直島へ移住された方など様々な島民の方々とテーブルを囲み、直島の昔話や来島者との関わりなど自由なトピックについて気さくに語り合っていただきました。「あの人にまた会いたい」と思っていただけるようなきっかけの場になっていれば幸いです。

「気さくな住民の方々の生の声を聞けて、島への愛を感じました。お会いで来て良かったと思っている。(お客様の声より)」
「私は常々、「直島のこの不便さを便利なものに変えたら、直島じゃなくなってしまうのではないか」と思っていました。しかし、移住されている方々が「守るべきもの」としての決意を持ってくださっていることに、ほっとしました。(お客様の声より)」
「訪れる方と接することは、私自身が旅をしている気分となり楽しい時間が過ごせた。(島民の声より)」
変化の中で問い直す「本村・家プロジェクト」の存在意義
ツアーの最後に、家プロジェクトの運営を長年に渡り担当してきたスタッフと一緒に作品を巡りました。様々なエピソードをお聞きいただいたからこそ聞いたからこそ浮かび上がる、島の暮らしとアートとの結びつきや、作品のメンテナンスも含めた新たな視点。私たちスタッフにとっても、改めて「家プロジェクトとは何か?」その意味を問い直し、次の世代へとつなぐことの大切さを感じる機会となりました。

「自分たちで企画するのは初めての経験だったため戸惑うこともあったが、こんなことができるのがベネッセアートサイト直島で働く魅力だな、と思った。(スタッフの声より)」
「アーティストと作品、スタッフの距離の近さがあって生まれた企画なんだなとお客様が言ってくださった。スタッフの作品への愛情や、町民の方との距離感などをお客様にも届けられたことが良かった。(スタッフの声より)」
「町民との信頼関係を再認識できた。お客様と町民との交流をサポートできたのが一番良かった。町民の方々が非常に喜んでおられたことが印象的だった。(スタッフの声より)」
お客様と、島民の方と、スタッフと。一同に会する機会の少ない私たちが、共に本村地区について見つめ直す機会となりました。
ベネッセアートサイト直島は、私たちにしかできないツアーを大切にしていきます。
初めてご来島される方にも、再訪される方にとっても新しい発見のある内容を検討してまいりますので、ぜひご期待ください。

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