何度訪れていても新たな発見がある
「直島鑑賞ツアー」体験レポート

初めて直島を訪れたのは、2009年だった。瀬戸内に壮大なアートを楽しめる島があるらしい。島、アート、穏やかな海......それだけで十分じゃないかと、よく調べないまま出張先の松山から足を延ばしたことを覚えている。初めての直島で、私は衝撃的なアート体験をすることになる。その約6年後、住処を東京から香川に移した理由に、アートの島々の存在も頭にあった。香川で暮らし始めてからも直島を訪れていたけれど、新たな体験を期待して、ベネッセアートサイト直島主催の「直島鑑賞ツアー」に参加した。

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直島鑑賞ツアー:家プロジェクト「護王神社」での鑑賞の一コマ

本村エリアの家プロジェクトからスタートした鑑賞ツアーでは、参加された3名の方と、この日のガイド・小松原さんとともに約6時間かけて直島をめぐった。家プロジェクトの経緯や作家について、どんな着想から生まれた作品なのかなど、ガイドを聞きながら作品を鑑賞する。他の参加者からの質問で話が広がり、より深く知ることができるのも、この鑑賞ツアーの醍醐味だ。

何度も訪れているのに、知らないことがたくさんあった。「碁会所」では、小松原さんから教えていただいたことをきっかけに、改めて作品をいろんな角度から見つめた。これから鑑賞される方のために詳細は避けるが、「なるほど、そうだったのか、ということは......」とまた別の視点で作品と向かい合う。ああ、私はやっとこの作品を味わいはじめたのかもしれない。

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家プロジェクト「碁会所」 須田悦弘"碁会所"(写真:渡邉修)

知ることで、目線が変わる。それは作品に対しても、島に対しても同じだった。次の作品までの移動中、家々に設置されたステンレス製のプレートに彫られた名前のようなものが、「屋号」であると小松原さんから教えてもらう。屋号は、昔から使われてきた各家のニックネームのようなもの。ちなみに、ANDO MUSEUMの屋号は「いちんどん」だった。そんな風に、島のちょっとしたエピソードを聞きながら歩けば、見えてくる風景も変化する。直島でこうやって歩く時間を楽しむのは、初めてかもしれない。

家プロジェクトの4つの施設とANDO MUSEUMを鑑賞した後に昼食をいただいてから、専用の送迎車でベネッセハウス ミュージアムへ。鑑賞ツアーでは、美術館や食事の予約から解放され、滞在時間や移動手段で悩むこともなく、アート鑑賞に集中できるのがありがたい。

多彩な作品が設置されているベネッセハウス ミュージアムは、自由な気持ちにさせてくれる、大好きな場所だ。これまで直感的な感想にとどまっていた「バンザイ・コーナー1996」では、ガイドを通してぐっと理解が深まった。その瞬間、自分の中で別々の箱にしまってあった柳幸典の作品たちが突然繋がりだし、アーティストとの距離が縮まった気がした。

他にも、壁に直接描かれた絵がどのように制作されたのか、ずっと不思議に思っていたジェニファー・バートレット「黄色と黒のボート」が海辺にも存在することについてのお話、うっかり見逃してしまいそうな作品など、さまざまなお話を伺いながら鑑賞を楽しんだ。

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ベネッセハウス ミュージアム内観。写真右手の作品が「黄色と黒のボート」

続いて訪れた李禹煥美術館は、李禹煥と安藤忠雄が対話しながら設計した美術館であることを知った。李禹煥の作品は、心にじんわりとしたぬくもりと静寂が同時に広がっていき、なんだかとても心地いい。でも、私はその意図をなかなかキャッチできないもどかしさを持ち続けていた。李禹煥が自身の作品について説明することはほとんどないが、これまで作家が語ってきた言葉、アートの世界での石や鉄、素材それぞれの意義などを用いながらのガイドでは、ヒントをたくさんもらえた気がする。

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李禹煥美術館 屋外作品「無限門」を鑑賞するツアー参加者の皆さん

鑑賞ツアーの最後は、地中美術館。直島の中で、最も訪れている場所だ。入口手前の「地中の庭」で『池に向かったこの目線を覚えておいてください』と小松原さんに言われたことが、「睡蓮」シリーズの鑑賞で活きてくる。絵を描いたときのモネの目線を作品の前でイメージすると、モネが見たであろう風景がその奥にふんわりと浮かんでくる。目の前にあるもの以上の何かを感じた途端、作品と自分の関係性が変化した。

ジェームズ・タレルの「アフラム、ペール・ブルー」では、まず、少し離れたところから光る立方体を視覚的に捉えた。そのうつくしさに満足していると、小松原さんから「近づいてみてください」と声がかかり、素直に歩み寄る。すると、先に捉えた立方体はどこかへ消えてしまった。これは、なんだろう......。ふわふわと、頭の中にわからないなにかが浮遊していく。

「この作品は、光に形を持たせています。立方体に近づくと、それがただの光でしかないことがわかります。タレルの作風を如実に示している作品です」

見えているもの。見えなくても存在しているもの。光......。自分の中に生まれた感覚的なものが、小松原さんの言葉によって形を持ちはじめ、思考が広がっていった。

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ジェームズ・タレル「アフラム、ペール・ブルー」1968(写真:藤塚光政)

今回の鑑賞ツアーでは、何度も訪れている場所でも新たな体験や発見が数多くあったことが驚きだった。わからないままにしていたこと、なんとなく感じていたことがクリアになったことも大きい。直島を初めて訪れたという参加者の方も、まずはご自身で感じたことを大切にしながら、ガイドによる発見を楽しんでいる様子が印象的だった。ここでの体験は、これからアートを鑑賞するときの新たな視点にもなる予感がする。次は、どの島に行こう。

小林 繭子(こばやし まゆこ)
ローカルウェブメディア「瀬戸内通信社 」編集長・ライター、コピーライター。1984年生まれ、愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に香川県小豆島、2019年に高松へと移り住む。東京ではIT企業に勤務、小豆島では佃煮会社に勤務しながら総合型地域スポーツクラブの事務局・広報を担当。高松に移住後、ベンチャー企業で働きながらライターとしての活動を始める。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

ベネッセアートサイト直島の鑑賞ツアーについては「ツアーに参加する」ページをご覧ください。

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