「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」再公開
ベネッセハウスの作品の一つ「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」は、ベネッセアートサイト直島が1995年、ヴェネツィアにおいてに授与をスタートした「ベネッセ賞」の第一回受賞者である、蔡國強による作品です。
蔡國強による、「入浴」という体験を伴うこの作品は、公開後、ベネッセハウス宿泊者や旅行客らが実際に湯に浸かり、文化や年代を越えた交流をする作品として親しまれてきました。一時期、入浴体験を中止していましたが、2020年の春から再開いたしました。
今回は、この度再始動した入浴体験プログラム、および屋外作品としての新たなしつらえ、および更衣小屋の改修とその内部での展示についてご紹介します。
「文化大混浴 直島のためのプロジェクト」(以下、文化大混浴)はニューヨークのクイーンズ美術館で展示された「文化大混浴 20世紀のためのプロジェクト」が元となっており、直島のこの場所に合わせて制作された作品です。20世紀という時代を背景とした、現代化とテクノロジーの進歩、伝統的な文化と自然の混沌とした状態がジェットバスや太湖石などにより表現され、ここに展示されることにより、よりスケールの大きな作品として完成しました。作品設置から20年ほどが経った今でも、基本的には展示の内容は変わらず、漢方薬を用いたお湯に浸かるという作法も変わらず継承されています。2018年からスタートした文化大混浴再始動への取り組みにおいて、屋外作品として、入浴をされないお客様にも鑑賞をしていただける形を目指し、一つの工夫として更衣小屋を改修するとともに、写真展示などを行いました。
更衣小屋は林の中に佇む中国式の瓦置きと杉板よる小さな小屋で、入浴体験者が水着に着替える際に使う屋外の更衣室です。この場所での展示について、文化大混浴のアート担当者に聞きました。
「この度の文化大混浴の再始動にあたり、更衣小屋についても、当初は元の姿への復元が予定されていました。しかし、作家とともに考えた末、お客様に、より深い入浴体験をしていただけるような工夫として、更衣小屋に文化大混浴設置時に実際に使われた『龍脈図』と呼ばれる気の流れを示した図を施し、その気の流れに配慮しながら決められた石の設置や、蔡さんが実際に作業している様子ご覧いただける記録写真を展示しました」
更衣小屋の内では、赤い線で力強く描かれた気の流れや、制作過程を追った写真の数々から、作品制作に込められた思いや、熱量を感じることができます。
「この入浴体験では、ただ、屋外にあるお風呂に入るような感覚ではなく、様々な文化との対話を表す作品の中で、気の流れを感じながら、ゆっくりと自省の時間を持っていただけたらと思います。しかし、日常から離れて気持ちをリセットするのは、現代社会のスピードの中で生きる私たちにとって、容易なことではありません。そのため、お客様にしっかりと体験への準備をしていただける場を作ろうと作家とともに考えました」
更衣小屋の小さな窓からは、切り取られた瀬戸内海の風景が見えます。一度内から外を見ることにより、自然を捉える視座が定まり、入浴体験への期待感が高まっていきます。
ベネッセハウス宿泊者限定の入浴体験では、一日1組限りのプライベートな時間をお楽しみいただけます。20世紀から21世紀の時代の転機に制作された文化大混浴は、20年余の時を経て、内省の場としても鑑賞者を迎えます。ぜひ、文化大混浴での鑑賞体験をもとに、今の時代や文化、「生きる」ことについて思索を深めていただけたらと願っています。
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