"究極のコラージュ作品"
「針工場」の船型が逆さまに置かれた理由とは?
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は、豊島・家浦地区にある作品、大竹伸朗氏による「針工場」(2016)について紹介します。
![針工場](/story/uploads/story/TH-001.png)
大竹伸朗氏による「針工場」は、打ち捨てられる寸前だった船型と、旧針工場という二つの存在を合体させたコラージュ作品です。旧針工場は昭和の終わりに閉じられたメリヤス針の製造工場跡地であり、船型は愛媛県・宇和島の造船所にて本来の役割を一度も果たすことなく約30年間放置されていた鯛網漁船の造船用の木型です。別々の記憶を背負った二つの存在が、作家によって重ね合わせられ、新たな作品として息づいています。
元々あった壁が取り払われて鉄骨がむき出しになった「針工場」の空間に足を踏み入れると、長さ約17mの船型が現れます。船とは逆さまに置かれており、お客様から「なぜ逆さまに置かれているのか」と質問をいただくこともあります。今回は、「針工場」の船型が逆さまに置かれた理由と、ベネッセアートサイト直島に点在する大竹氏のほかの作品との違いや特徴を振り返ります。
![改修前の旧針工場で模型を確認する大竹氏(左)](/story/uploads/story/P4090708.png)
ベネッセアートサイト直島では、豊島の「針工場」のほか、直島には「シップヤード・ワークス」シリーズ(1990)、家プロジェクト「はいしゃ」 "舌上夢/ボッコン覗"(2006)、直島銭湯「I♥湯」(2009)、女木島には「女根/めこん」(2013)と、複数の島で大竹伸朗作品を展示しています。いずれの作品も大竹氏が得意とするコラージュの手法が用いられており、周辺の環境や元々あった建物、場所などから大竹氏が得たイメージを軸に、様々なモノが貼り合わせられ、形を成しています。
![シップヤード・ワークス](/story/uploads/story/shipyard2.png)
中:「シップヤード・ワークス 船尾と穴」(1990) 写真:村上宏冶
右:「シップヤード・ワークス 切断された船首」(1990) 写真:表 恒匡
![家プロジェクト「はいしゃ」](/story/uploads/story/NA-115.png)
![直島銭湯「I♥湯」](/story/uploads/story/NS-001.png)
![女根/めこん](/story/uploads/story/MK-003.png)
「針工場」とほかの作品に共通するのは、元々あった場所から切り離されたり打ち捨てられるなどして、本来の機能や役割を失ったモノが使われているという点です。大竹氏は「針工場」に置いた船型について「この型は船のイメージっていうよりも...、何かが宿っている雰囲気がすでにあると思う」と語っています。船型を逆さまに設置することで船ではなく船型として見せること、さらには放置されていた30年という時間が刻まれたモノとしての存在感を見せたいという意図が感じられます。
「針工場」はベネッセアートサイト直島のほかの大竹氏の作品と比較するとシンプルな印象を受けますが、現在の展示方法にいたるまでには様々な議論がありました。一時は空間内に装飾的な加工を施すなどのアイディアもありましたが、旧針工場の中央に船型を展示する場合に、お互いがこれ以上ないほど適したサイズだったことや、最も見せたいものは旧針工場と船型の記憶、そして二つの存在が出合うことで新たに立ち上がる場であったことから、「ど真ん中にぼんと置くだけ」(大竹)という展示に行き着きました。
![針工場に搬入される船型](/story/uploads/story/115.png)
「宇和島で使われずに残っていた船型と、豊島の針工場が、見事なぐらいサイズが合っている。こんなコラージュはない。このサイズ、高さでお互いが合体する。それだけでいい。余計なことをしないのが」
「空っぽの針工場に木型がぽんとあるだけで俺っぽいと思う。究極のコラージュっていうか」
「(新たに立ち上がる場には)強い生命力が絶対ある。巨大な生き物みたいなイメージになると思う」
2015年3月15日 大竹伸朗の言葉より
![搬入の様子を見つめる大竹氏](/story/uploads/story/DSC_0429.png)
「針工場」は、大竹氏の言葉を借りるなら「極限にそっけない」コラージュ作品ですが、極限まで削ぎ落とされた表現だからこそ、モノそのものが持つ歴史や背景、それらが組み合わさったがゆえの意味を、訪れる人に問いかけているのではないでしょうか。
![針工場](/story/uploads/story/TH-004.png)
参考:NAOSHIMA NOTE 2016年1月号「大竹伸朗、豊島の新作について」
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