豊島横尾館のキッズツールを使って、作品をじっくり見つめ、オリジナルの物語を想像してみよう!

豊島横尾館では、親子での鑑賞体験が豊かなものになるように、小学生のお子様向けに「豊島横尾館 キッズツール」の無料配布を2020年から始めました。今回は、豊島横尾館のスタッフが、活用していただいたお子様の事例を挙げながら、キッズツールについてご紹介します。

豊島横尾館は、「生と死」をテーマに豊島・家浦地区の築約100年の古民家を改修してつくられました。館内は、もともとあった建物を生かして「母屋」「倉」「納屋」の展示空間で構成され、横尾氏の平面作品11点が展示されています。さらに、庭と池、円塔、さらにはトイレに至るまで横尾氏のインスタレーションが敷地内に展開されています。建物には光や色をコントロールする色ガラスにより、豊島の光や風や色がさまざまに移り変わり、空間全体を体感できる美術館です。

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豊島横尾館 写真:山本糾

豊島横尾館のキッズツールは、展示空間やお子様の学年に合わせた4種類を用意しています。小学校高学年向けツールの『物語をつくろう』では、豊島横尾館の中でも一番大きな絵画作品「原始宇宙」を見ながら、3枚それぞれの場面をつなげて、自分だけの物語を作っていただきます。

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「原始宇宙」 2000年

お子様たちは、さまざまな鑑賞方法で作品にじっくり向き合ってくれています。お母様が見守る中、お子様が一人で黙々と作品世界を想像されたり、お父様の問いかけにじっと考えてみたり、家族で畳に座って談話しながら一つの物語を作ったり......。「原始宇宙」の多種多様な物語が豊島横尾館で誕生していますので、『物語をつくろう』の中からいくつかご紹介していきます。

『岩』というタイトルをつけた小学5年生のお子様は、一番左の絵の男の人の脚が岩に同化していることを気づき、想像力豊かな「岩」の物語を完成させました。

山の中で男がいった。
「つる、かめ、こっちに来るな。おいらや、この木、このがいこつのようにとけてなくなってしまうぞ」
そう言っても、つるやかめが近づいてきて、いっしょにとけてしまった。
数年後、この三人の人間がこの岩を利用し、世界の人々をとかし、
この三人だけで世界中のほねをふんで、歩き毎日をすごした。そして最後には(...以下略...)
『岩』

また、「原始宇宙」に『三途の川わたり』というタイトルを付けた別の小学5年生のお子様は、一番左の絵と中央の絵の共通点である水に注目し、「三途の川」として物語を発展させていました。

川をわたっていた先は地ごくであり、大量のホネがあった。
すると恐らく地ごくの番人が「どうぞどうぞ」と言っていた。
「ああ、自分のホネもここに飾られるのか」するといきなり(...以下略...)
『三途の川わたり』

「原始宇宙」の一番右の絵は、「起承転結」の結びの部分としてよく使われます。青、黄色、オレンジとカラフルな色で描かれた抽象的な絵です。みなさんには、何に見えますか? 大人の方でも考え込んでしまうような作品ですが、お子様の持つ柔軟な発想力は物語を飛躍させます。ある小学生は、気づいたことをメモにしながら、一番右の絵を『死んだあとの目線』として物語を帰結させました。

左の絵:「武士 つる おくさんの死がい」→つるに殺された
中央の絵:「男 男 女 ほね」「おくさんの死がい→行き場」
右の絵:「死んだあとの目線」
『死んだ後の世界』

死後の世界は、生きている私たちにとっては未知の領域です。横尾氏は、こういった「死」をイメージする作品を何枚も描いています。一方では、右の絵を「池に生き物がいるみたい」と、動く「生」を見出すお子様もいらっしゃいました。「死」から生み出されるエネルギーや色彩の豊かさや、「死」と同時に「生」のエネルギーも感じられるのかもしれません。

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「原始宇宙」が展示された「母屋」の展示空間(写真:山本糾)

このように、豊島横尾館のキッズツールでは、作品を解説するのではなく、作品と向き合い、考えるきっかけになるような「問いかけ」を用意しています。小学校低学年向けのツール『見つけてみよう』では、作品に描かれているさまざまなモチーフを親子で探してみたり、小学校高学年向けのツールの一つ『想像してみよう』では、作品に描かれていない、その先の世界を想像していきます。

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作品を鑑賞したお客様から「作品には作者の意図があり、正解がある気がする」と質問をいただくこともありますが、横尾氏自身は「自由に物語を作ってほしい」と語っています。

人は絵によって気持ちが誘発されると、どんどん絵の中に入っていって、自分の物語を作っていく。
僕は僕なりの物語を描いていますけど、それが見る人にそのまま伝わらなくてもいい。むしろ僕としては(...略...)自由に物語をつくってもらいたいわけです。
横尾忠則『豊島横尾館ガイド』(河出書房新社) pp.98

横尾氏の作品は、鑑賞者それぞれのオリジナルの物語が生まれてくる可能性がたくさんあります。気軽に、自由に鑑賞していただき、お子様のみならず、ご家族で、また大人同士でもツールを活用して、あなただけのオリジナル物語を豊島横尾館で想像してみませんか?

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「メランコリア」の2つの路の先の世界を想像している豊島小3~4年生の様子

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