直島の中央部に展示された作品――
三島喜美代「もうひとつの再⽣ 2005−N」

三島喜美代氏の「もうひとつの再⽣ 2005−N」(2005年)は、地中美術館から徒歩で10分ほどの池のほとりの細い道沿いに展示されています。安藤忠雄氏が監修した「桜の迷宮」の広場のすぐ前に唐突に現れるゴミ箱をモチーフとした作品は、見る者に新鮮な驚きを与えます。

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三島氏は、新聞やコミックなどを陶で表現した作品で一躍有名になった作家です。当初は小さな作品を制作していましたが、その量感が増し、作品の規模が大きくなるにつれ、自分が作り出したものがいつかゴミになってゆく、ということを憂慮するようになりました(引用:「三島喜美代」ドキュメンタリー岐阜県現代陶芸美術館オリジナルソフト2004年)。

2001年頃からは、「溶融スラグ」(ゴミを1400℃で焼成し、できたガラス状の粉末)と「廃土」を素材として利用し、環境問題に対するメッセージを取り込みながら作品を制作してきました。折しもその頃、直島では豊島に不法投棄された廃棄物と汚染土などを無害化処理するための中間処理施設が操業を開始しました。そのニュースを新聞で知った三島氏は、直島に興味をもち、直島での作品展示を着想したと言います。

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「もうひとつの再⽣ 2005−N」と三島氏(Image by Alice H. North.)

直島町は1960年頃から続く地域づくりの方針として、島を3つのエリアに分けてそれぞれの地域の異なる活用を目指してきました。北は、三菱マテリアルの直島製錬所を中心とする工業エリア。島の中央は、幼児学園や小中学校を中心とした文教エリア、そして南側は瀬戸内海国立公園を活かした開発のエリア。直島がアートの島と呼ばれる要因となった地中美術館やベネッセハウスなどはこの南のエリアに点在しています。

ベネッセアートサイト直島が三島氏から作品展示の申し出を受けた当時は、直島町にて循環型社会のモデル地域の形成を目指した「エコアイランドなおしまプラン」がスタートした矢先でもありました。作品のもつメッセージ性と直島町の新たな環境への取り組みとの接点を活かすべく、リサイクルなどを行っている島の北部とアート施設のある南のエリアをつなぐこの場所に作品が展示されることになったのです。

「『溶融スラグ』という素材を通して、島の人々と交流できるのではないか」――作品設置当時の記録には三島氏のそんな言葉が残っています。地中美術館と島の中部をつなぐ道端に突如現れる大きなゴミ箱「もうひとつの再⽣ 2005−N」は、一風変わった場所で、今も島の産業と人々の暮らしを見つめ、これからの社会の在り方と展望を作家独自のユーモアを交えながら表現しているようです。

三島喜美代さんは森美術館の「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」で唯一の日本に在住の日本人作家として作品展示をしています。また、TERRADA ART COMPLEX Ⅱ(東京都品川区東品川1-32-8)では7月14日(水)~9月4日(土)「三島喜美代展」が開催される予定です。ぜひこちらもご覧ください。

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