人々の記憶を保存アーカイブする―「心臓音のアーカイブ」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は、豊島・唐櫃地区にあるクリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」(2010年)について紹介します。

地中美術館
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」(写真:久家靖秀)

「心臓音のアーカイブ」はクリスチャン・ボルタンスキーが集めた世界中の人々の心臓音を恒久的に保存し、それらの心臓音を聴くことができる小さな美術館です。ボルタンスキーは2021年7月に逝去されましたが、心臓音の収集は現在も続けられています。「心臓音のアーカイブ」では、希望者がメッセージとともに自分の心臓音を登録することができます。

地中美術館
写真左端に写る器具を胸に当てて心臓音を録音する。登録後は自分の心臓音が収録されたCDを、作家の言葉が掲載されたブックレットとともに持ち帰ることができる。登録には入館料と別途、登録料(税込1,570円)が必要。(写真:斎藤 圭吾)

お客様の中には、何度も心臓音を登録する方もいます。2010年の豊島島民向けプレオープンの際に心臓音を登録された方が、2020年の開館10周年というタイミングで再び心臓音を登録されました。メッセージには、10年前と変わらず「健康を願って。」という言葉を残されています。また、ボルタンスキー自身も複数回にわたって心臓音を登録しています。

地中美術館の建設現場
レコーディングルームで心臓音を登録している様子。メッセージを入力し、心臓音を録音する。

ボルタンスキーによる心臓音の作品化は、2005年、マリアン・グッドマン・ギャラリー(パリ)での個展で発表された「Le coeur」という作品に始まります。この作品では、録音された作家自身の心臓音が展示室に流れ、その鼓動に合わせて電球が明滅します。現在の「心臓音のアーカイブ」の原型とも言える作品でした。(※ この時録音されたボルタンスキーの心臓音は、「心臓音のアーカイブ」には未登録)

建設中のデ・マリア室外観
クリスチャン・ボルタンスキー(1944-2021)

その後、人々の生きた証として心臓音を収集するプロジェクトを始めたボルタンスキーは、2008年にラ・メゾン・ルージュ(パリ)、2010年にサーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)と「心臓音のアーカイブ」(豊島)、2013年にオナシス文化センター(アテネ)にて、自身の心臓音を録音しています。これらの音は「心臓音のアーカイブ」に登録され、多くの方々の心臓音とともに、ボルタンスキーが生きた証としてこの地で流れ続けています。

コンクリート壁面
写真左:2010年7月、芳名帳に記帳するボルタンスキー/写真右:同日、リスニングルームで心臓音を聴くボルタンスキー(提供:ナイカイ・アーキット)

「心臓音のアーカイブ」には14ヵ国19ヵ所で録音された75,637件(2022年1月10日現在)の心臓音が登録されています。それら一つとして同じ音は無く、音の主がその時に感じた思いや記憶を内包しています。まだ訪れたことが無い方も、訪れたことがある方も、自分が生きた証を残してみてはいかがでしょうか。

「私の作品の中の心臓音は、記録された瞬間、生きた主人公の中の心臓音ではなくなるうえ、その人はだんだん死に向かう。でも、記憶としては生き続ける。...人々の記憶のアーカイブとして、変化しながら積み重なっていくのです。」
OZmagazine(オズマガジン)2010年7月号にて、ボルタンスキーへの取材より抜粋
地中美術館
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」ハートルーム(写真:久家靖秀)

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