女木島に根づいた"植物の生命力"の象徴――大竹伸朗「女根/めこん」
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は2013年に女木島で公開を開始した作品、大竹伸朗による「女根/めこん」の制作プロセスを紹介します。
香川県高松市沖の女木島に休校中の女木小学校があります。この小学校の中庭で大竹伸朗による作品「女根/めこん」(2013)が公開されています。中庭には、敷地に対して明らかに不釣り合いな大きなブイと、女木島に生えていたヤシの木が直立しています。周囲には複雑に曲がりくねった木の根や熱帯植物があふれるなど、大竹が女木島の印象として感じとった植物の生命力と、それを象徴する"根"を軸に、空間全体が作品となっています。作品名の「女根/めこん」には女木島の"女"、"根っこ"、そしてこの作品が島に"根づいていくこと"への願いがこめられています。
女木小学校を活用して島民や女木島を訪れる人々の憩いの場をつくるというプロジェクトは2011年春頃から本格的に始動し、直島で「落合商店」(2001)や「直島銭湯『I ♥︎湯』」(2009)などの実績のあった大竹伸朗がアーティストとして選ばれました。休校中の女木小学校の校舎の使用条件は原状復帰であったため、大竹は作品の主な舞台を中庭とし、新たに庭園をつくることを発案しました。
2011年8月、大竹は庭園の象徴として宇和島に流れ着いたという高さ8mの「ブイ」を敷地内に垂直に直立させることを発想しました。「ブイ」は海上に浮かべる構造物で浮標(ふひょう)ともいい、船舶に障害物や航路を示すために用いられます。
大竹が使用を提案したブイは当初直島で使用される予定でしたが、使われることなく数年間直島の空き地に置かれたままになっていました。女木島でブイを使用するにあたり、岡山県の工場に運びサンダーがけを施して表面のサビを落とすなどの美装を行いました。大竹はブイを陸に直立させることで「海にあるものが陸にある違和感」「重力がおかしくなった感じ」を出したいとのべています。
女木島の植物の生命力に触発された大竹は作品の素材として植物を用いることを決め、2012年2月、女木島に生えていたフェニックスヤシを庭園の中心的な存在として中庭に移植することを希望しました。プロジェクトチームは持ち主からヤシを譲りうけ、移植にむけた準備を進めました。ヤシは根回し※をし、夏のあいだは島民のご協力も得て水やりを定期的におこないました。
※移植する樹木を根づきやすくするため、前もって主根と側根以外の根を切り、細根を発生させる作業のこと。
ブイとヤシはそれぞれ敷地内の別の場所に設置する予定でしたが、2012年7月に大竹は「ヤシをブイに突き刺す」ことを提案しました。直径240cmのブイの円筒部分は空洞だったため、これを鉢にし、ヤシを移植することにしました。
2013年1月、ブイは女木小学校の中庭で主要な構造材が組み立てられ、ブイに取り付けられた杭を地中に打つことで固定されました。移植の準備が進んでいたヤシは中庭まで運ばれ、クレーンで吊り上げられ、ブイの円筒部分に設置されました。
その後、ブイは赤い蛍光色で塗装され、空間の中心的な存在となる「ブイとヤシの合体物」(大竹)が姿を現しました。放射状にのびたヤシの葉も手伝って「合体物」は勢いよく地表から飛び出すような印象を受けます。「女根/めこん」は2013年3月、瀬戸内国際芸術祭2013の春会期で公開され、以降、数回の追加制作を経て現在に至っています。ヤシとブイの「合体」についてはヤシがブイに根づくかが最も心配されましたが、移植から約10年が経過した現在も、ヤシは枯れることなく「女根/めこん」の象徴としてブイに根づき、繁茂しています。
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