景観の一部として自然の中にあり続ける作品――杉本博司「タイム・エクスポーズド」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は、ベネッセハウス周辺エリアの岸壁に展示している杉本博司「タイム・エクスポーズド」について紹介します。

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「タイム・エクスポーズド ミルトア海、スーニオン」(1990) 写真:渡邉修

ベネッセアートサイト直島では、杉本博司による「海景」シリーズの作品を複数点展示しています。「海景」シリーズは世界各地の海の水平線を同じ手法で撮影した作品群で、太古から変わらずに存在する海の風景が表現されています。ベネッセアートサイト直島で初めて展示したのは、1994年に開催された「Open Air'94 "Out of Bounds"―海景の中の現代美術展―」のときです。本展は瀬戸内海の風景の中で作品と周囲の自然を調和、もしくは対峙させることで、新たな風景を生み出すことを目指しました。このような企画意図のもと、杉本の「海景」シリーズ14点をベネッセハウス ミュージアムの地下一階テラスの壁面に展示しました。鑑賞者がある地点に立つと、テラスの壁の合間から見える瀬戸内海の水平線と作品の水平線が重なります。両者は呼応し、世界各地の海と瀬戸内海の結びつきを感じさせます。

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「タイム・エクスポーズド カリブ海、ジャマイカ」(1980) © Hiroshi Sugimoto
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「タイム・エクスポーズド」(1980-97) 撮影:安斎重男

杉本には「太陽光や風雨にさらされて写真がどのように色あせていくか、時間の経過が写真にどのように取り込まれるか見てみたい」という意図もありました。一般的に写真は劣化防止の観点から直射日光を避けて展示しますが、ここではあえて屋外の環境が必要とされたのです。当初は展覧会期のみ展示する予定でしたが、会期後も展示を継続することが決まり、作品の経年変化を観察することになりました。

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倉浦の岬と「オカメノ鼻」と呼ばれる岬に1点ずつ展示・公開した。
写真上は現在も「オカメノ鼻」に展示している「タイム・エクスポーズド ミルトア海、スーニオン」(1990)。
写真:渡邉修
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「直島スタンダード2」展の際、倉浦の岬に展示した作品。
「タイム・エクスポーズド 南太平洋、テアライ」(1991) 写真:渡邉修

作品はアクリルフレームによって密閉されていますが、太陽光や風雨にさらされ、悪天候時には潮を浴びることもあります。過酷な環境での展示によって、ベネッセハウスミュージアムでの展示より急速に作品の劣化が進んでいきました。展示を継続した2点のうち、倉浦の岬に展示した作品はこれまでに2回入れ替えています。下の写真は2013年7月から展示し、約9年間も過酷な環境にさらされた後、2022年6月に外された作品です。

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2022年6月に岸壁から外した作品を同年11月に撮影。アクリルフレームの右上が割れている。
「タイム・エクスポーズド ノルウェー海、ベステローデン諸島」(1990)© Hiroshi Sugimoto

この作品では、アクリルフレームの割れた部分から雨水が侵入し、写真の水平線の位置まで水が溜まっていました。杉本はこれを「本当の水平線ができた」と言い、肯定的に捉えています。「時間の経過が写真にどのように取り込まれるか見てみたい」という杉本の探究によって、作品が新しい表情を現しました。そこには作品が景観の一部として直島の自然の中にあり続けた時間が刻まれています。

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「タイム・エクスポーズド 南太平洋、テアライ」(1991) 撮影:渡邉修

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