寄稿「仕事もしながらゆったりと過ごす直島」山本憲資

直島への訪問は今回で4回目か5回目だったのだけど、少し仕事もあったので、今回は欲張らず豊島や犬島には行かず、直島だけの滞在というスケジュール。直島だけを見て回るのであれば一泊でも可能だし、二泊するとなおのことゆっくりと過ごせる。

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ベネッセハウス パーク 客室(写真:渡邉修)

今回はお昼過ぎに島に到着した僕は、まずはベネッセハウスにチェックイン。そこから地中美術館へ。そしてホテルに戻り夕方から夜にかけて、また2日目の朝から昼下がりまでずっとオンラインのミーティングをしていた。

アート作品で満たされた環境でミーティングをしていると、なんだか心にエネルギーが漲る感じがする。アートのあるオフィスというのは珍しくないかもしれないけれど、ここまでアートに囲まれた環境は、ここ直島独特のものと言える。こんなコロナ禍の状況も、どこでも仕事ができるチャンスと捉えて、なんとか楽しんで行かねばと強く思う。

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ウォルター・デ・マリア「タイム/タイムレス/ノー・タイム」2004(写真:Michael Kellough)

地中美術館の睡蓮に心を洗われて、ジェームズ・タレルの光で心を整えて、ウォルター・デ・マリアの部屋にたどり着く。そういうプロセスを経たあとに、ゆったりと時間の流れるこの島の静かな景色を眺めながら仕事に臨むというのは、なんとも贅沢な体験だし、実際ミーティングも捗る。仕事のあとは併設のレストランで夕食を食べて、地下の展示スペースの作品を見て回って、お酒を飲んで就寝。よく眠れる。

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ベネッセハウス テラスレストラン(写真:渡邉修)

翌朝起床したあと、ミュージアム棟に朝食を食べに行く。海と屋外に展示されたアート作品を眺めながらの15分ほど歩く。これが極上の散歩コースで、晴れた空の下、澄んだ空気を吸い込みながらゆっくりと。大竹伸朗の作品のシュールさも朝の時間はなおのこと際立つな、なんて思っているうちにミュージアム棟に到着する。

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大竹伸朗"シップヤード・ワークス 船尾と穴"

個人的には直島の一番の魅力的な時間のひとつだと思うのが、ミュージアム棟に展示されたデビッド・ホックニーやリチャード・ロングをはじめとした錚々たる作品群を横目に朝食会場にたどり着くこの時間である。朝ごはんが主目的なことだけあって、この名作たちをわざわざ見に行っているものではないからか、さも自分のプライベートのスペースに飾られている作品に触れているような幸せな錯覚に陥ることができるのだ。ある意味脇役ともいえる、これほど贅沢なアートの演出はなかなかないと思う。海と、そして杉本博司の海景の連作を目の前に食べる朝食もこれまた贅沢である。

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ベネッセハウス ミュージアム

朝食後、この日は朝からみっちり仕事をして、昼下がりから李禹煥美術館や家プロジェクトを巡った。5年ぶりくらいだと思うのだけど、年を重ねて自分の感覚も成長しているのと、あとアーティストのことを年々深く理解できていることもあるのだと思うけれど、同じ作品でも前回とまた別の見え方をして面白い。ジェームズ・タレルの南寺では、今までで一番瞑想感を満喫できたように思う。

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家プロジェクト「南寺」(写真:鈴木研一)

フェリーに乗る前には、大竹伸朗の直島銭湯「I♥湯」に入浴。すいていて随分とゆっくり入れてリラックスできた。以前訪れたときに購入したここの洗面器を僕は自宅の風呂でも使用している。

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大竹伸朗 直島銭湯「I♥湯」(2009)(写真:井上嘉和)

今回の滞在はスケジュールの都合で一泊だったのだけど、次の日も空いていれば、地中美術館のジェームズ・タレルの『オープン・スカイ』のナイトプログラムを体験して帰りたかった。

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ジェームズ・タレル「オープン・スカイ」2004 ナイトプログラム(写真:藤塚光政)

以前にも見たことはあるのだが、あの空間で暮れていく空を眺めながら心が解放されていく体験というのは他には代えがたい。観光のあとでももちろんいいのだけど、仕事をしたあとにあの時間が待っている、というのはアート好きにとっても最上のご褒美のひとつなのではと思う。金・土のみのプログラムなので、週末と重ねて前半は仕事もしながら、後半はゆっくりと島を愉しむという日程が一番おすすめかもしれない。次回はその日程で訪問しよう。

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リチャード・ロング「十五夜の石の円」

山本 憲資(やまもと けんすけ)
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店、雑誌編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。アート、音楽、食などへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。

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