クリスチャン・ボルタンスキー氏追悼メッセージ:
三木あき子

心臓音のアーカイブ
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」(写真:久家靖秀)

クリスチャン・ボルタンスキーの記憶を辿ると、パリ市立近代美術館やサル・ペトリエール病院礼拝堂など主要展示での作品体験や、フランス在住の折、家が近所で家族でご挨拶したり、何かの食事会の帰りに車で送っていただいたりした思い出に加え、強く印象に残っているのが、各種原稿用にインタビューした際に本人から語られた数々の言葉である。1

作風に反して饒舌で語りの上手いアーティストは多いが、彼の作品は彼の出自と密接に関わっており、その人生や作品についての一言一句が深く心に響くものであった。ユダヤ系の父親とコルシカ出身のキリスト教徒の母親のもと、パリ解放直後に生まれ、ホロコーストの残響のなか、学校に通わず、家族との強い絆の中で育ったこと。抱えたトラウマ、持ち物をすべて永遠に残したいという願望、人生を公に残したいという欲望を原点として、不在となった無数の人々の記憶、個人の存在の痕跡を残す表現へと昇華させていったこと。そして、自分の人生には、大人になった時、両親との別れ、死が近づいてきた時という3つの創造的瞬間があり、最終段階である近年は、刹那的な作品、旅を中心とした作品に取り組み、回顧展と神話を作り続けることが最後の宿題と考えていること......。

まさに、その神話を作る方向性のなか、実現した豊島の<心臓音のアーカイブ>(2010)と<ささやきの森>(2016)では、遠方の立地と、建物自体が作品ではないとの理由でそこに重きを置かず、地元の大工による普通の建物に拘った。また、日本等における霊魂の存在、生きる人と死者の魂が繋がっているという考え方や、「伝承」が物ではなく、知恵を通して行われることへの関心を示し、自分の作品も巡礼や祈り、瞑想といった精神的な体験に近いが、答えを準備してしまう宗教とは異なり、疑問を投げかけ、各自が答えを導き出し、問い続けることが大切なのだと強調した。

なかでも、彼の死が現実のものとなった今、忘れられないのが、自身の人生を振り返り、最悪の時期も知っているが、アートが助けてくれたおかげで、人生はまさに「可能」そのものだったと穏やかな表情で語っていたことと、いつか自分の名前が忘れ去られても、豊島に人々が家族や先祖の心臓音を聞きに来る伝統が継承されるようにと願っていたことである。

我々は、彼が残した作品とともに、人間の弱さと強さ、亡き人を想うこと、生きることとアートのちから等について考えさせてくれるこれらの言葉をしっかりと受け止め、未来に繋ぐべく、その意味を問い続けていかねばならないだろう。

1.ここでは、主にベネッセアートサイト直島の活動をまとめた英文書『Insular Insight』(Lars Müller Publishers,2011/2012年)と、『美術手帖』誌2016年12月号掲載の筆者によるクリスチャン・ボルタンスキーインタビュー原稿内の言葉を紹介。

三木あき子
ベネッセアートサイト直島インターナショナル・アーティスティック・ディレクター。元パレ・ド・トーキョー(パリ)チーフ及びシニア・キュレーター(2000-14年)、ヨコハマトリエンナーレ2017コ・ディレクター、同2011アーティスティック・ディレクター。

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