クリスチャン・ボルタンスキー氏追悼メッセージ:
北川フラム

ささやきの森
クリスチャン・ボルタンスキー「ささやきの森」(撮影:市川靖史)

7月14日の夜半、白羽明美さんから「クリスチャン(・ボルタンスキー)が亡くなった」との電話があった。少し前からニュースで知って呆然としていた時だった。2000年に初めてお会いして以来、越後妻有の大地の芸術祭が7回、瀬戸内国際芸術祭が3回、その間、大阪・長崎・東京で開かれた回顧展があった。またヴェネツィア・ビエンナーレでも何回かお会いすることがあった。個人的には彼が教師をしているパリのボザールで私が講演をした時、或いは私が米国に思想信条で入国拒否された際にアドバイスをくれた時にもパリでお会いしている。いつも白羽明美さんが同席してくれていた。白羽さんはパリ在住の美術コーディネーターで、40年程前詩人の大岡信さんの紹介で知り合った、親身に仕事をされる方である。

この間ボルタンスキーの業績と、日本にもたらしてくれた影響については可能な限りインタビューに応じ、新聞などに寄稿してきたのでこの稿では個人的なことに限って書かせていただこうと思う。

最初は越後妻有の私の常宿の食堂でだった。「あっ、ボルタンスキーだ」と思う間もなくいくつかの質問や感想が飛んできたのだが、さっぱり分からない。それで終わり。その後、芸術祭のディレクターとしてやりとりが始まった。最初の、信濃川支流の清津川の河川敷にある畑に72本のワイヤーに数百枚の白い衣服を吊るす「リネン」では設定のズレで数分間の沈黙のあと、地域の人々と一緒に服を吊るすイキイキとした様が映像に残っている。次は無人駅でやろうとの提案があったが実現しなかった。次は残された学校に山野草や花を手向ける「夏の旅」(2003年)。その学校で「最後の教室」(2006年)を恒久作品とする時には真冬で、2メートルを超える雪の中の学校を見たいと照明のジャン・カルマンと雪をラッセルした。ここでは集めた干し草を出したり入れたり、用意した旧卒業生や先生の名札や写真の展示をやめたりしたが、その中で感じ入ったのは、亡くなった個々の一人ひとりが類としての人間に昇華していく過程と、画の六法でいうところの「経営位置」(コンポジション)に対する厳密さだった。2012年の「No Man' s Land」という16トンの古着の山をクレーンのUFOキャッチャーである神の手が吊り上げ降ろすという作品では震災後の三陸を巡ったし、豊島の「心臓音のアーカイブ」(2010年)では場所選びで海との関係にこだわった。一人ひとりの生命、それゆえの死、そしてそれらが海を超えてつながることには確固とした信念を持たれていた。南部風鈴を使った「ささやきの森」は風の通り道に人の祈りが鳴っていく。それらを話すクリスチャンの言葉には、まさに彼が詩人であることを思い出させる、ゆったりとした美しさがあった。その作品と話しぶりが脳裏に去来する。クリスチャンは亡くなったが、残された私たちにとって、決して寂しくないはないと思わせてくれるあたたかな心根の人だった。

北川フラム
1946年新潟県上越市生まれ。東京芸大卒。瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター、越後妻有アートトリエンナーレ総合ディレクターなどを務める。アートディレクター。2007年芸術選奨文部科学大臣賞(美術部門)、2010年県文化功労者。

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