寄稿「直島で『自分だけの答え』をつくるアート鑑賞体験をしてみませんか」末永幸歩

「アートについてこんなに語れる自分に驚いた」。美術館でのアート鑑賞ツアー中に、参加された方から出た言葉です。

美術教師として私が目指しているのは、カタログを片っ端から見ていくようなアート鑑賞ではなく、作品にゆっくりと向き合ったり、他の人と対話したりしながら、「自分だけの答えをつくる」鑑賞です。

「その時」「その場で」「そこに集まった人で」しかできないような鑑賞体験をするために、「その場所でつくられ、その場所でしか体験できないアート作品」である、「サイトスペシフィックワーク」を特徴としているベネッセアートサイト直島は最適の場所です。

このコロナ禍であっても、自宅にいながら直島でのアート鑑賞ツアーを体験し、自分のペースでアートに向き合うことはできないだろうか。そんな想いでつくったのが、Udemyでの体験型動画講座です。

Udemy動画講座「大人こそ受けたいアート思考の授業-瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く-」

姿をガラッと変えてしまう作品

この動画の作成にあたり、今年3月、数年ぶりに直島を訪れました。忙しい撮影の合間にふと出会った1つの作品が、つい最近、私にとっての「自分なりの答え」に結びつきました。

その作品は、海に面したレストランに向かう途中の、薄暗い渡り廊下の壁一面にありました。私がはじめてそれを見たのは19時頃だったでしょうか。夜闇の中でキラキラと煌くその作品は、スパンコールを散りばめたイブニングドレスを連想させるような、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出していました。

翌朝、朝食を取りに同じレストランへ。そこでちょっと驚いてしまいました。日光のもとでみる作品は、夜のそれとはまったくといっていいほど姿を変えていたからです。

ブラインド・ブルー・ランドスケープ
テレジータ・フェルナンデス "ブラインド・ブルー・ランドスケープ"(写真:森川昇)

夜には無彩色であったコンクリートの壁は、春の空を想わせるような優しい色をしていました。キラキラと煌いていたのは、壁に貼り付けてある、たくさんのガラスタイルでした。1つひとつは1cm四方の四角形ですが、全体で見ると大きなシダレヤナギのようにも見えます。青い空の色を反射したガラスタイルは、海のみなものように瞬き、爽やかな景観をつくっていました。

また、小さなガラス片の1つに近づいてよく見てみると、そこには空や風景が鮮明に映り込んでいました。作品全体を眺めると「海のみなも」が広がり、タイル1つに焦点を絞ると「小さな風景」が立ち現れる。私が目を動かすたびに、作品の見え方が大きく変わる、不思議な体験でした。

小さな風景

1歳の娘はなぜパンジーに手を振っていたのか

先日、その時の鑑賞体験が、他の出来事からの気づきと結びつきました。もうすぐ1歳になる娘と、近所の公園に行った時のこと。娘が花壇に咲いた黄色いパンジーに一生懸命手を振っているのです。手を振ることを覚えたばかりでしたので、ただ面白くなって振っていただけなのかもしれませんが、「なぜその相手がパンジーなのだろう?」と不思議に思い、娘の目線でパンジーを観察してみてみました。

すると、パンジーの花が風を受けて絶え間なく小刻みに揺れていることに気がつきました。その様子は、まるでパンジーが手を振っているかのようです。

黄色いパンジーの花

これは私にとって発見でした。なぜなら、その時まで私は花壇に並んだパンジーを当然のごとく「静止したもの」として捉えていたからです。この発見があってから、街中で樹木にも目を向けてみると、枝や葉の一つ一つがすべて動いていることにも気が付きました。一時たりとも静止することはなく、また一度として同じ動きをすることなく、躍動しています。このことに気がついた時、植物はその植物だけで完結した存在なのではなく、風をその植物にとっての心臓や血液といった原動力にして生きているかのように感じられたのです。

ふと、直島での鑑賞体験が思い起こされました。直島で出会った作品は、夜と朝とで大きく姿を変えていました。また、私の目の動きに合わせてまったく異なる姿を見せていました。つまり、あの作品は「静止したもの」でも、「作品だけで完結したもの」でもなく、「日光」や「私の目」を原動力として生きているのではないかと思ったのです。作品の内側と外側を隔てていた境界線が消えていくような感覚でした。

これがアート作品に向き合ったことによって生まれた私の「自分なりの答え」です。「自分なりの答え」をつくる過程で、私がしていたことはたった2つです。

① 作品を見た時に気がついたことをいくつも口に出してみたこと
(「海のみなものようだ」「ガラスに景色が映り込んでいる」など)

② その時の驚きや気づきを心の引き出しに入れておいたこと
(「夜と昼とでイメージが変わった」「目を動かすたびに作品が動いているようだ」など)

このように、自分だけの答えをつくるアート鑑賞は、決して難しいものではありません。実際、直島でのアート鑑賞ツアーでは、中高生から大人まで、十人十色の「自分だけの答え」が生み出されていました。

1つのアート作品と向き合うと、冒頭でご紹介した方のように、アート作品について自分の言葉で語ることができる、新しい自分との出会いが待っているはず。

この記事をお読みのみなさんも、ぜひご自宅で、そして現地直島で、アート鑑賞ツアーをご体験くださいね。

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末永幸歩(すえなが ゆきほ)
美術教師/アーティスト。東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。浦和大学こども学部講師、東京学芸大学個人研究員。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、教育機関での出張授業、大人に向けたアート思考のセミナーなども行っている。著書に『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)がある。

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