冬季休館中の犬島での活動――
より良い鑑賞体験をお届けするための美術館の取り組み
2020年12月から2021年2月末までの3か月間、犬島のアート施設(犬島精錬所美術館、犬島「家プロジェクト」、犬島 くらしの植物園)は冬季休館しました。お客様にとってより良い鑑賞体験をお届けできるよう、休館中は様々な取り組みを行いました。「休館中の美術館ではどのようなことが行われているのだろう?」そんなお声をいただくこともありますが、普段はお見せする機会のない美術館の裏側について少しご紹介します。
作品や施設のメンテナンス
犬島のアート施設では、定期的に作品や施設のメンテナンスを行っています。この休館中も改修業者によるチケットセンターの修繕や、美術館スタッフによる作品のメンテナンスを行いました。スタッフが作品を改めて詳細に観察することで状態や補修の必要な箇所がよく分かります。また、早めに対処することで大きな破損を未然に防ぐこともできます。地道な作業ですが、作品をより良い状態で恒久的に公開するためには必要不可欠な作業です。
犬島の魅力を再発見するフィールドワーク
休館中は、他の島で働くスタッフとともに、犬島の魅力について考えるフィールドワークも行いました。犬島は周囲約4km、歩くと1時間ほどで一周できる小さな島です。犬島には島民の暮らしの中に文化や歴史が根付いており、島を巡るだけでも犬島にしかない魅力的な風景を見つけることができます。犬島の作品は集落の中、島民の方の生活のすぐ近くにあり、作品と町並みの調和も見どころです。
作品の中には犬島でとれたみかげ石、通称「犬島みかげ」や、銅の製錬を行う際にできた副産物「カラミレンガ」が使われているものもあります。島の個性と作品が織りなす風景はここでしか見られないものであり、スタッフからは「島全体が1つのアート空間のように感じた」との声もあがりました。
また、隣の島である豊島のスタッフの視点から見ると、同じ瀬戸内の島でも自然環境が少し異なるように感じたそうです。「こんな植物は豊島にはない!」「海辺の砂の質感が犬島の方がサラサラしている。海の色も少し違う」「犬島には高い建物がなく、遠近感が狂うような感じがする」など環境から受ける印象の違いを思い思いに話し合い、それぞれの島の自然の独自性について考えるきっかけとなりました。
また、豊島と違って犬島には車がほとんど無く、周遊手段は「歩く」に限られています。様々な場面でスピードが求められる現代ですが、自分の速度で「歩く」ことでこそ見つけられるものもあるのではないかと感じ、これも犬島の魅力だと改めて気づくことができました。
犬島「家プロジェクト」鑑賞ツールの作成
犬島「家プロジェクト」ではお客様の鑑賞サポートの一環として新たに「鑑賞ツール」を作成しました。家プロジェクトについて、「なぜ、家なの?」「作品や建築と島には、どんな関係性があるの?」とお客様から質問をいただくことがよくあります。作品について知っていただくだけではなく、家プロジェクトでの体験を通して島そのものの魅力に触れていただくために何かできることがあるのではないかと考えました。
犬島「家プロジェクト」の建物は、もともと人が住んでいた家やその跡地を改修したギャラリーです。作品もまた、その場所や島民に蓄積する記憶を手掛かりに、それぞれの作家のインスピレーションを投影させて作られています。
犬島「家プロジェクト」鑑賞ツールは、1軒1軒の家と周辺のエピソードや、それぞれの作品の見方が深まるような問いかけで構成しています。また、小学生以上のお子様には、作品を「見る・考える・話す」ことが楽しくなるような問いかけで構成した鑑賞ツールをご用意しています。それぞれ無料で貸し出し、配布していますので、散策のお供にぜひご利用ください。
この他にも休館中、犬島「家プロジェクト」C邸で展示している作品「無題(C邸の花)」の作家、半田真規さんが来島し、作品のメンテナンスとスタッフ向けのレクチャーを行ってくれました。作家の言葉を直接聞くことのできる貴重な機会でしたが、このお話は次回のブログでお伝えします。
休館中の美術館の取り組みの一部をご紹介しましたが、いかがでしたか? SNS等で作品画像を手軽に見ることができる昨今。しかし、自分の足で島を巡り、感性や思考を使って作品や島を体感することで得られるものには確かな実感があり、自分自身と向き合うきっかけになることと思います。3月から犬島のアート施設は開館しています。ぜひ島を訪れ、穏やかなひと時に身を任せていただければ幸いです。
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