寄稿「安藤建築で杉本作品を堪能する、
世界で唯一の宿泊体験。」石田 潤

最初に直島を訪れたのは今から6年前のことだ。プライベートの旅行で、ベネッセアートサイト直島の地中美術館李禹煥美術館を見て周り、船に乗って豊島の豊島美術館まで足を延ばした。1泊2日のショートトリップでは全てのアート施設を周ることは出来なかったが、世界トップクラスのアーティストによるサイトスペシフィックな展示の数々に圧倒されたのを覚えている。海に突き出た桟橋の突端に現れる草間彌生の「南瓜」に始まり、安藤忠雄設計の静謐な空間で出合う李禹煥作品、そして自然光の元で満喫するクロード・モネの名作「睡蓮」。ここでしか味わえないアート体験がある。ふと、ニューヨーク近郊にあるコンセプチュアルアートの殿堂Dia: Beaconを思い出した。しかも直島にはDia: Beaconにはないもう一つのアートの楽しみ方がある。宿泊施設だ。アートサイト内には4つの宿泊棟があり、部屋から公共スペースに至るまであらゆるところに現代アートが置かれている。

テレジータ・フェルナンデス「ブラインド・ブルー・ランドスケープ」(写真:森川昇)
テレジータ・フェルナンデス「ブラインド・ブルー・ランドスケープ」(写真:森川昇)

初めての直島探訪では、その一つであるベネッセハウス パークに宿をとった。パークは安藤建築には珍しい木造の施設で、部屋にはジェームズ・タレルの版画が飾られていた。

ジェームズ・タレルの版画が飾られたベネッセハウス パークの客室
ジェームズ・タレルの版画が飾られたベネッセハウス パークの客室

他にもロビーにはトーマス・ルフ、ラウンジにはトーマス・シュトゥルート、そして宿泊棟とレストランをつなぐ回廊にはテレジータ・フェルナンデスと、歩くともれなくアートに出合う。中でも圧巻は杉本博司の写真作品が展示されたホールで、むき出しのコンクリートと白い壁を組み合わせた空間には「松林図」や「ワールド・トレード・センター」、そして空間の設計者である安藤忠雄の代表作「光の教会」などが飾られていた。美術館と異なり開館時間の制限がない宿泊施設では、朝から晩までいつでも作品を鑑賞することができる。自然光が差し込む朝と深淵な闇に包まれる夜では、空間そして作品ともに全く異なる顔を見せ、特にしんと静まり返った夜に見る杉本作品と安藤建築の競演は格別だった。考えてみれば、この2人のコラボレーション自体が、世界でここ一つのものではないだろうか。

杉本博司「光の棺」(写真:杉本博司)
杉本博司「光の棺」(写真:杉本博司)

不思議なご縁で、この最初の訪問以来、毎年のように仕事で直島は訪れているが、慌ただしい取材出張ではベネッセハウスに宿泊するいとまはない。いつか再び、朝起きた時から夜眠りに落ちる瞬間までアートに埋没する、そんな贅沢な旅をしたいと思う。

石田潤
東京都出身。「流行通信」編集長、「VOGUE NIPPON」を経て独立。現在は「T JAPAN: The New York Times Style Magazine」、「カーサブルータス」を中心に、ファッション、アート、建築をテーマに編集、執筆。編集した書籍に、sacaiの活動をまとめた「sacai A to Z」(米Rizzoli社)、建築家レム・コールハースの娘でアーティストのチャーリー・コールハースによる写真エッセイ集「メタボリズム・トリップ」(平凡社)など。

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