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李禹煥美術館 アーティストトーク――他者との対話

李禹煥美術館は今年で開館10周年を迎えました。アーティスト・李禹煥は、10余年にわたって直島という場所と向き合い、自らの美術館とともに歩んできました。2019年にその集大成ともいえる新たな作品《無限門》が完成し、新たな時代を迎えようとしていた最中、新型コロナウイルスの感染拡大により世界中が未曽有の危機下に陥りました。

新しい価値観の枠組みに転換しつつある現在において、世界各地で活躍する李氏は世界といかに向き合っているのでしょうか。2020年11月、直島にてアーティストトークを開催しました。このブログでは、本トークイベントにおいて李氏が語った言葉を紹介します。

李禹煥氏によるトークの様子
李禹煥氏によるトークの様子。場所は李禹煥美術館「瞑想の間」

李禹煥美術館開館のきっかけは、2007年、イタリア・ヴェネツィア・ビエンナーレでの展示(「Resonance」展)に遡ります。この展示をみたベネッセアートサイト直島の代表者・福武總一郎から「あなたの美術館を直島につくらないか」と声をかけられましたが、当初は自身の美術館をつくることに乗り気ではなかったと李氏は語ります。

「世の美術館というものに対して、美術の墓場みたいではないか、美術作品だけを集めて人を呼び込んで見せることが良いことなのかどうなのか、そういう疑問を僕は持っていました」

李氏は、収集したものを対象物として展示し、鑑賞者が一つひとつ点検するようにして鑑賞する美術館の在り方に対して懐疑的でした。そうした美術館では、アーティストの内面、自我を反映させたものだけを展示しており、周囲の空間や自然、歴史、他者といった「外部」の存在が排除されていると李氏は考えているためです。

「自分の美術館ができるとすれば、そういう外部――特定なアーティストの考え、内側だけではなく、外側との関連性、関係性を十分組み合わせて、その視覚的なものを鑑賞したり、何かを感じ合ったりすることができる場所になるだろうと考えました」

李禹煥美術館「出会いの間」
李禹煥美術館「出会いの間」(撮影:山本糾)

李氏は、その作家人生において、人間中心的に世界を捉える近代以降の価値観に対して疑問を投げかけ続けてきました。人間は世界の一部に過ぎず、その中で他のものと関わりあって生きている、むしろ人間をはるかに超えたものが世界である――李氏はこうした考えのもと、自我を前面に押し出すのではなく、「他者」、つまり自然や隣人や自分以外のものとの交流や不協和音の中で物事を考えていくことを重要視しています。

李氏は、トークの中で、先史時代の壁画で知られるアルタミラ洞窟やラスコー洞窟を例に挙げ、それらは特定のアーティストの考えにより作られたわけではないと語ります。そこは、人間の周囲にひしめくものに対する畏敬の念や自分たちの共同体などさまざまな要素が織り交ぜられたことで、自我や個を超越した場となっています。自身の名を冠する美術館をつくるにあたっては、そうした場所を念頭に、「洞窟のような場所」と作品とを結びつけた空間にしようと考えました。

李禹煥美術館「柱の広場」
李禹煥美術館「柱の広場」(撮影:山本糾)

李禹煥美術館は、直島・倉浦という海に面した山の谷間に位置します。建築家・安藤忠雄による建物は、周囲の自然に溶け混み、谷間に埋まるように建てられています。美術館には明確な境界線はなく、瀬戸内海や木々に囲まれ、作品が毎日異なる光に照らされています。その作品は、個を超え、周囲の空間に調和・反発し、豊かな響き合いを生み出しています。

美術館に来館された方の中には、このようにコメントを残してくださった方もいます。

「不易なものや巡り合う時間との対話を最も意識させてくれる空間と時間を過ごせた」
「庭や風景、自然まで含めて美術館全体が一つの作品となっていて、訪れるたびに新しい発見がある。館内の、天窓からの光と木の葉の揺らめく影がとても美しく心が和みました。何回も来たくなる理由です」

開館10年を経て、美術館を取り囲む自然は人間の意思を超えて絶え間なく変化し続けていますが、李氏の作品はそれを受け入れ、日々異なる形で調和しています。

李禹煥美術館は、今後も変わらぬ姿でお客様をお迎えし続けていきます。しかし、その姿は訪れるたび、周囲やお客様との関係性の中で、絶えず違って見えることと思います。瀬戸内の自然の中、他者――自然や空間、世界そのものとの対話の時間を過ごしにぜひお越しください。

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