須田悦弘 ベネッセハウス展示作品「バラ」公開メンテナンスの記録
須田悦弘さんは、本物と見紛うほど精巧な植物の彫刻作品を、それが展示される空間も含めて作品化するインスタレーションの作家です。2001年に開催された企画展「スタンダード」展に始まり、ベネッセアートサイト直島内の複数個所に作品を展示している数少ない作家の一人です。今回は、ベネッセハウス パークの開館に合わせて展示された「バラ」(2006)のメンテナンスのために、須田さんにご来島いただきました。作家本人によるメンテナンスの他、その前日にはベネッセアートサイト直島スタッフを対象としたトークイベントも開催されました。このたびのストーリーでは、須田さんが来訪した2日間をご紹介します。
9月23日(月) 須田さんご来訪、「碁会所」の展示確認
家プロジェクト「碁会所」(写真:渡邉修)
ベネッセアートサイト直島に展示されている須田さんの作品として、まず挙げられるのが、本村の町並みを舞台に展開される「家プロジェクト」7軒のうちのひとつ「碁会所」です。かつて島の近隣の人々が集まり碁を楽しんだ場所といわれている跡地に街並みになじむ建物を建て、作品を2006年から展示しています。須田さんには、まずスタッフとともに、「碁会所」の様子をご確認いただきました。作家の意図のとおり、作品展示を保持できているか、何か問題点はあるか、アート担当者や現場スタッフらの緊張感が高まりましたが、幸い大きな改修が必要な個所はなく、私たちはトークイベント会場に移動しました。
本村ラウンジ&アーカイブでのトークイベント
イベント会場には家プロジェクト運営スタッフや、ベネッセハウスのスタッフがおよそ40人集まりました。
まずは須田さんにご本人の経歴、作品の説明などをいただきます。ベネッセアートサイト直島の作品の他、海外での展示作品についてなど、興味津々で聞き入りました。
質疑応答では、次々と参加者の手が上がり様々な質問が飛び交いました。
-「碁会所」に23個の椿が置かれているのには何か意味があるのか?
-これまでに作った作品の中で一番難しかった植物は何か?
-あまりにリアルな造形であるため作品だと気づかないお客様にはどう対応すべきか?
作品に気づかないお客様に対しては、「ご案内しても良いし、しなくても良い。その時のスタッフさんの体調にあわせて判断してください」とのことでした。現代アートはそもそも、万人がその作品を好きになるというものではない。それと同じで作品に気づく人がいたり、気づかない人がいたりするのは自然なこと、なのだそうです。その他の質問のこたえについては、ベネッセアートサイト直島にお越しの際に、ぜひスタッフに質問してみて下さい。
9月24日(火)公開メンテナンス
今回、ベネッセハウス パークに展示されている「バラ」の塗り替えのためにお越しいただきましたが、ベネッセハウス ミュージアムに展示されている須田さんの作品、「雑草」についてもご確認いただけないかとご依頼したところ、快く承諾をいただきました。早速、アート担当者が梯子に上り、「雑草」を採集します。
普段は手の届かない個所に展示されていますが、今回はメンテナンスを好機に、雑草に触れさせていただく事もできました。軽くて繊細な作品を手のひらにのせ、緊張と興奮のあわさった表情を浮かべるスタッフたち。
さて、本題の「バラ」の公開メンテナンスが始まります。バラの花びら一枚一枚を外し、岩絵の具を重ね塗りしてゆくという緻密な作業が始まりましたが、須田さんは常に朗らかな顔つきで、見学のお客様と話しながら手を動かしていらっしゃいました。
「たくさんの人に見られながら作業をするのは緊張しませんか?」という見学者の質問には「うしろから見られると緊張するので、公開制作の時はなるべく壁際に座って作業するようにしています」とのこと。岩絵の具を乾かす間は、サインなどにも応じてくださいました。
ピンク色の重ね塗りが施された「バラ」はベネッセハウス パークの展示場所に再設置されました。
作品の展示場所はベネッセハウス パークラウンジから、スパやレストランのある棟に向かう通路の途中にあり、ベネッセハウスにご宿泊の方のみ鑑賞が可能です。
やや見つけづらい場所にひっそりと佇む作品ですが、この度、須田さんの穏やかで茶目っ気のあるお人柄に触れ、このような展示こそ、まさに須田さんらしさを表現しているように思われました。
このたびメンテナンスで鮮やかによみがえった作品「バラ」を、ぜひ多くの皆様にご鑑賞いただけますと幸いです。
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