重さ44トンの一枚岩はどこから来たか。犬島精錬所美術館
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録を紹介する「アーカイブ・シリーズ」。第9回は、2008年に公開された「犬島精錬所美術館」を紹介します。

犬島精錬所美術館は岡山県犬島に位置し、1909年に建設され1919年に操業を停止した銅の製錬所の遺構を保存・再生してつくられた美術館です。この美術館は、自然エネルギーを利用した環境に負荷を与えない三分一博志氏の建築と、日本の近代化に警鐘をならした三島由紀夫をモチーフにした柳幸典氏の作品、植物の力を利用した水質浄化システムが導入されています。

以下の写真は、美術館の建設時に巨大な一枚岩を館内へ搬入・設置した際の風景です。犬島は古くから良質の花崗岩が産出される島として知られ、大坂城の石垣や鶴岡八幡宮の鳥居などへも犬島の石が使われています。美術館に設置されたこの重さ44トンの一枚岩も、犬島から切り出されたものです。狭いスペースでの巨石の設置は犬島で培われた職人たちの技術と工夫によって実現されました。

この一枚岩は美術館において、熱を蓄える特性により空間の夏の温度上昇を抑えるという建築上の役割をもっています。また、岩の浅い窪みにたたえられた水のゆらめきによって空気の流れを視覚化し、水の反映によって全円の「日蝕の太陽」を現出させるという、作品上の重要な役割も担っています。

製錬所の煙突やカラミ煉瓦だけでなく、犬島に在る様々なものや特性が随所に利用されていることに、「在るものを活かし、無いものを創る」という犬島精錬所美術館のコンセプトが強く現れています。
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