アーカイブ・シリーズ 第9回
「犬島精錬所美術館」より
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録を紹介する「アーカイブ・シリーズ」。第9回は、2008年に公開された「犬島精錬所美術館」を紹介します。

犬島精錬所美術館は岡山県犬島に位置し、1909年に建設され1919年に操業を停止した銅の製錬所の遺構を保存・再生してつくられた美術館です。この美術館は、自然エネルギーを利用した環境に負荷を与えない三分一博志氏の建築と、日本の近代化に警鐘をならした三島由紀夫をモチーフにした柳幸典氏の作品、植物の力を利用した水質浄化システムが導入されています。

以下の写真は、美術館の建設時に巨大な一枚岩を館内へ搬入・設置した際の風景です。犬島は古くから良質の花崗岩が産出される島として知られ、大坂城の石垣や鶴岡八幡宮の鳥居などへも犬島の石が使われています。美術館に設置されたこの重さ44トンの一枚岩も、犬島から切り出されたものです。狭いスペースでの巨石の設置は犬島で培われた職人たちの技術と工夫によって実現されました。

この一枚岩は美術館において、熱を蓄える特性により空間の夏の温度上昇を抑えるという建築上の役割をもっています。また、岩の浅い窪みにたたえられた水のゆらめきによって空気の流れを視覚化し、水の反映によって全円の「日蝕の太陽」を現出させるという、作品上の重要な役割も担っています。

製錬所の煙突やカラミ煉瓦だけでなく、犬島に在る様々なものや特性が随所に利用されていることに、「在るものを活かし、無いものを創る」という犬島精錬所美術館のコンセプトが強く現れています。
ブログ記事ー一覧

2021.01.18
寄稿「あの空気を吸いに行く」鈴木芳雄
直島に初めて行ったときのことを思い出してみる。杉本博司さんの護王神社が完成して、そのお披露目と神社への奉納能「屋島」を見に行ったときだ。2002年。かれこれ20年か。記事を読む

2021.01.15
寄稿「bene(よく)+ esse(生きる)を考える場所」神藤 秀人
「"よく生きる"とは何かを考える場所」は、決して「一人称」でないだろう。島のため、島の人のため、島に来る人のために、必要な場所なのだ。はっきりとした目的があり、そこに向けて成長してきた「ベネッセアートサイト直島」は、世界中の全ての人に、生きることの素晴らしさを伝える活動である。そして、それは今の香川県の「らしさ」の根元でもあり、日本を代表する"デザイン"だと僕は思う。記事を読む

2021.01.13
島の暮らしとともに
今年90歳を迎える直島町民の田中春樹さんは、1990年代からベネッセアートサイト直島の活動に関わってくださっています。今回の記事では、約30年に渡るベネッセアートサイト直島でのエピソードについて田中さんに振り返っていただきました。記事を読む

2021.01.06
寄稿「感じるためのレッスン」島貫 泰介
じつを言えば、私が直島にやってきたのは今回が初めてなのだ。そう告白すると、アートに興味のあるほとんどの人は驚く。私もまさかこれまで一度も来る機会を持たず、初の来島がコロナ禍で揺れるこの2020年になるとは思ってもいなかったのだから同感だ。だがこのタイミングで来れたことは恩寵だったと思う。記事を読む

2020.12.24
ベネッセハウス お客様の声(2020年11月)
年の瀬も近づき直島は一段と寒さを増してきました。ベネッセハウスには、旅行客で賑わう春・夏ではなく、冬を選んでお越しくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。今月も2020年11月にご宿泊いただいたホテルゲストの方からの感想の一部をご紹介します。記事を読む

2020.12.21
寄稿「二つの出あい、島々で」大西 若人
人やモノとの出あいには、2種類ある。新鮮な出あいと、懐かしい出あいだ。 今という時代を鮮やかに切り取る現代美術を見る場合、当然のことながら、前者が多い。誰もが、新鮮な出あいを求めて、現代美術を見にゆくといってもいい。 ただ、例外もある。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」といった里山や島々で開催される芸術祭もその一つといえるだろう。記事を読む