豊島への巡礼の道――クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブ・シリーズ」。第5回は、クリスチャン・ボルタンスキー氏による「心臓音のアーカイブ」(2010年)を紹介します。

blog20200916_01.jpg
2008年10月、豊島の唐櫃八幡神社のお祭りに参加するボルタンスキー氏(左:写真右、右:写真中央)

「心臓音のアーカイブ」は2010年、豊島・唐櫃地区の唐櫃八幡神社境内にある王子が浜に建設・公開されました。この施設は「遠く離れた地に、世界中の人の心臓音を聴くことができる『図書館』をつくる」というコンセプトのもと、生まれました。

制作の過程で豊島を訪れたボルタンスキー氏は、地域に対する感性の細やかさを見せます。設置場所が豊島の王子が浜に決まったのは、ボルタンスキー氏の要望からでした。王子が浜は、唐櫃港から歩いて15分ほどの距離にあり、飛行機や船を乗り継いだうえに、さらにこの距離を歩かなければ「心臓音のアーカイブ」には辿り着くことができません。この長い道程に、ボルタンスキー氏は「巡礼」のイメージを重ね合わせました。施設に辿り着くまでの長い道のりと、道中に生まれる思索の時間が重要だと考えたのです。

blog20200916_02.jpg
(左)唐櫃港から作品設置予定地までの道のりを歩くボルタンスキー氏
(右)公開前にリスニングルームで機材の動作を確認するボルタンスキー氏
blog20200916_04.jpg
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」リスニングルーム(撮影:久家靖秀)

生きている人、亡くなった人、遠い国の人、近い国の人、大切な人......。さまざまな人の心臓の音を聴きに訪れていただき、一人として同じ人間はいないという、人間の固有性とはかなさに想いを馳せていただきたいと思います。

blog20200916_03.jpg
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」ハートルーム(撮影:久家靖秀)

作品についての詳細は、ベネッセアートサイト直島広報誌 2019年1月号 P2-7でもご紹介しています。

同じカテゴリの記事

女木島に根づいた

2023.01.06

女木島に根づいた"植物の生命力"の象徴――大竹伸朗「女根/めこん」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...

続きを読む
景観の一部として自然の中にあり続ける作品――杉本博司「タイム・エクスポーズド」

2022.12.23

景観の一部として自然の中にあり続ける作品――杉本博司「タイム・エクスポーズド」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...

続きを読む
《無限門》――自然に呈された「直島のアーチ」

2022.09.24

《無限門》――自然に呈された「直島のアーチ」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...

続きを読む
「瀬戸内国際芸術祭」2010年の初開催に至るまで

2022.07.04

「瀬戸内国際芸術祭」2010年の初開催に至るまで

「瀬戸内国際芸術祭」は 2022年で5回目の開催となりました。主催は、香川県をは...

続きを読む
物理的な計測を超えたジェームズ・タレルの感覚的な尺度――「バックサイド・オブ・ザ・ムーン」

2022.06.06

物理的な計測を超えたジェームズ・タレルの感覚的な尺度――「バックサイド・オブ・ザ・ムーン」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...

続きを読む
17枚の絵で表現された犬島の自然と人々の暮らし<br>――「Yellow Flower Dream」

2022.03.09

17枚の絵で表現された犬島の自然と人々の暮らし
――「Yellow Flower Dream」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...

続きを読む

カテゴリ検索