豊島への巡礼の道――クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」

1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブ・シリーズ」。第5回は、クリスチャン・ボルタンスキー氏による「心臓音のアーカイブ」(2010年)を紹介します。

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2008年10月、豊島の唐櫃八幡神社のお祭りに参加するボルタンスキー氏(左:写真右、右:写真中央)

「心臓音のアーカイブ」は2010年、豊島・唐櫃地区の唐櫃八幡神社境内にある王子が浜に建設・公開されました。この施設は「遠く離れた地に、世界中の人の心臓音を聴くことができる『図書館』をつくる」というコンセプトのもと、生まれました。

制作の過程で豊島を訪れたボルタンスキー氏は、地域に対する感性の細やかさを見せます。設置場所が豊島の王子が浜に決まったのは、ボルタンスキー氏の要望からでした。王子が浜は、唐櫃港から歩いて15分ほどの距離にあり、飛行機や船を乗り継いだうえに、さらにこの距離を歩かなければ「心臓音のアーカイブ」には辿り着くことができません。この長い道程に、ボルタンスキー氏は「巡礼」のイメージを重ね合わせました。施設に辿り着くまでの長い道のりと、道中に生まれる思索の時間が重要だと考えたのです。

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(左)唐櫃港から作品設置予定地までの道のりを歩くボルタンスキー氏
(右)公開前にリスニングルームで機材の動作を確認するボルタンスキー氏
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クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」リスニングルーム(撮影:久家靖秀)

生きている人、亡くなった人、遠い国の人、近い国の人、大切な人......。さまざまな人の心臓の音を聴きに訪れていただき、一人として同じ人間はいないという、人間の固有性とはかなさに想いを馳せていただきたいと思います。

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クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」ハートルーム(撮影:久家靖秀)

作品についての詳細は、ベネッセアートサイト直島広報誌 2019年1月号 P2-7でもご紹介しています。

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