あるものを活かすコメづくり
2006年から発足した直島コメづくりプロジェクトは「直島の稲作を復活させ、かつてのコメづくりを基盤に成立した島(日本)の日常生活を現代の目から見つめなおす」という思いから始まりました。今回は島の方々に活かされる稲の余剰部分についてお伝えします。
"稲を手で刈り、藁(わら)で束ねて、干す。" 直島コメづくりプロジェクトのイベントでは、このように昔ながらの稲刈りを行います。稲を束ねるときには、前年から保管しておいた藁を使います。当たり前のように藁で結んでいますが、もし藁を使うという知識がなかったら、私たちは稲を束ねるためのヒモをお店で買ってしまうのではないかな、と作業をしながら感じました。

毎年稲刈りが終わると、島に住む地域の方々から「藁がほしい」「籾(もみ)がほしい」「糠(ぬか)がほしい」と声をかけていただきます。稲はお米として実を食べるだけではなく、不要と思われがちな部分も人の知恵によって様々なものに生まれ変わります。
例えば昔からお世話になっている島の方で、直島コメづくりプロジェクトでできた藁を使い、しめ縄を作っていらっしゃる方がいます。捨てられてもおかしくない、刈った後の藁が人の手によって美しく生まれ変わります。12月末のしめ縄を作る時期に、その方の家にお邪魔しました。実際にやってみると、とても難しい作業でした。藁を手のひらで滑らせ寄せていくと、藁に手の油をとられ手の皮が剥けてしまいました。それと同時に藁もボロボロになってしまいました。私の横でその方は大きな手で、手際よく藁をよせて、ねじり、しめ縄を作っていきます。まるで藁が生き物のように自然に動き、形が出来上がっていきました。人の手のひらでそれを生み出している姿に惚れ惚れしました。「昔はみんなこうやって作っていたけど、もう直島ではお米は作ってないからな。今は直島でしめ縄を作るのはうちだけかな」と、ご自身が米づくりをしなくなっても、私たちが作った稲の藁で毎年しめ縄を作られています。完成したしめ縄には昆布が設えられており、昔から直島では「よろこぶ」とかけて縁起物としてつけているそうです。私たちが作った藁が、こうやってお飾りとして美しい形になることにとても喜びを覚えました。




私たちスタッフの寮でご飯を作って下さっている島の方は、カツオを燻す時に藁を使います。直島に住むスタッフの中にも糠を使ってお漬物をつくるものもいます。その他にも畑にまくから籾がほしいと、たくさんの声をいただきます。

精米後のお米以外の部分を人は様々なものに作り変えるのです。モノを作る、畑をする、料理をする、その人の暮らしがあるからこそ生まれる方法で、稲を利用してくださいます。島の方は「籾も藁も大切なものなんじゃから」とおっしゃいます。お米一粒、藁一本大切にし、人の知恵でそれらを生かす。「米づくりはお米を作って食べるだけではない」ということを、稲刈りのあとの島の方々の様子を見て実感しています。そして、私たちの米づくりが、当たり前のように島の方々の暮らしに溶け込んでいることに嬉しく思います。
ブログ記事ー一覧

2021.01.18
寄稿「あの空気を吸いに行く」鈴木芳雄
直島に初めて行ったときのことを思い出してみる。杉本博司さんの護王神社が完成して、そのお披露目と神社への奉納能「屋島」を見に行ったときだ。2002年。かれこれ20年か。記事を読む

2021.01.15
寄稿「bene(よく)+ esse(生きる)を考える場所」神藤 秀人
「"よく生きる"とは何かを考える場所」は、決して「一人称」でないだろう。島のため、島の人のため、島に来る人のために、必要な場所なのだ。はっきりとした目的があり、そこに向けて成長してきた「ベネッセアートサイト直島」は、世界中の全ての人に、生きることの素晴らしさを伝える活動である。そして、それは今の香川県の「らしさ」の根元でもあり、日本を代表する"デザイン"だと僕は思う。記事を読む

2021.01.13
島の暮らしとともに
今年90歳を迎える直島町民の田中春樹さんは、1990年代からベネッセアートサイト直島の活動に関わってくださっています。今回の記事では、約30年に渡るベネッセアートサイト直島でのエピソードについて田中さんに振り返っていただきました。記事を読む

2021.01.06
寄稿「感じるためのレッスン」島貫 泰介
じつを言えば、私が直島にやってきたのは今回が初めてなのだ。そう告白すると、アートに興味のあるほとんどの人は驚く。私もまさかこれまで一度も来る機会を持たず、初の来島がコロナ禍で揺れるこの2020年になるとは思ってもいなかったのだから同感だ。だがこのタイミングで来れたことは恩寵だったと思う。記事を読む

2020.12.24
ベネッセハウス お客様の声(2020年11月)
年の瀬も近づき直島は一段と寒さを増してきました。ベネッセハウスには、旅行客で賑わう春・夏ではなく、冬を選んでお越しくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。今月も2020年11月にご宿泊いただいたホテルゲストの方からの感想の一部をご紹介します。記事を読む

2020.12.21
寄稿「二つの出あい、島々で」大西 若人
人やモノとの出あいには、2種類ある。新鮮な出あいと、懐かしい出あいだ。 今という時代を鮮やかに切り取る現代美術を見る場合、当然のことながら、前者が多い。誰もが、新鮮な出あいを求めて、現代美術を見にゆくといってもいい。 ただ、例外もある。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」といった里山や島々で開催される芸術祭もその一つといえるだろう。記事を読む