直島小学校6年生を対象に、李禹煥美術館ワークショップを実施しました
先日、直島小学校の6年生16名を李禹煥美術館に迎え、美術館スタッフがツアー形式で子供たちと一緒に作品や建築を鑑賞しながら美術館を体験する、ワークショップを実施しました。
海と山に囲まれた谷間に、ひっそりと佇む李禹煥美術館。半地下構造となる安藤忠雄設計の建物のなかには、アーティスト・李禹煥の70年代から現在に至るまでの絵画・彫刻が展示されています。自然石と鉄板を組み合わせ、極力つくることを抑制した彫刻作品などが配され、空間と融合した余白の広がりを感じさせます。
近年の李禹煥作品は「対話」がひとつのテーマになっているとも言われますが、李禹煥美術館は、来館される方がこの場所と出合い、作品との対話を重ねることで、体験が広がる開かれた場であることを目指しています。毎週土曜・日曜には、美術館スタッフの問いかけや参加者同士の交流を通して、感じたことを自由にお話いただく対話型ツアーを開催しています。
今回の李禹煥美術館でのワークショップは、地域の人・もの・ことに触れながら、自ら学び考え、地域を見つめ直す、直島小学校の企画「ふるさと学習」の一環として行われたものです。この企画は、子供たちが直島で働く人との出会いを通して、それぞれの仕事の魅力を発見し、身近な人が生きるうえで大切にしていることを学ぶという狙いも込められています。作品を鑑賞しながら美術館スタッフが問いかけていく中で、子供たちが美術館を体験し、新たな疑問を見つけ、自らが暮らす地域に改めて出合う機会となりました。
まずは、屋外の作品から。作品鑑賞というよりは、自由に散らばって動き回りながら、心地いい場所を見つけてそこから作品を見てみます。
走りまわりながら、李禹煥美術館の敷地特有の地形を体で感じている様子の子供たち。寝転がったり、しゃがんでみたり、立って見上げてみたり。作品に近づいたり離れたりを繰り返しながら、さまざまな角度から鑑賞していました。
「自由に動き回ってみて、どんなことに気が付いた?」
「どこまでが作品だと思う?」
美術館スタッフが問いかけます。
「周りが木に囲まれていて、落ち着く」
「全部、坂の角度が違う」
「海が見えて気持ちいい」
「高いところでは塔が小さく見えて、低いところでは塔が大きく見える」
「行く場所によって棒の見え方が違う」
「この鉄板は、なんで少しだけずれているの?」
敷地内を動き回りながら、子供たちはさまざまな気づきや疑問を持ったようで、それぞれ思ったことを互いに共有します。
その後、館内へ入り、自由鑑賞(館内探検)へ。
美術館スタッフが配布したワークシートに、気になった作品や好きな部分を色鉛筆で描き、どのポイントが気になったか、あるいは自分はどのような視点で見て目の前のものが好きだと思ったのかなど、美術館で気づいたこと、感じたことを言葉にして書いてみます。
「暗いところにあるアートと、明るいところにあるアートは、両方とも見るところによっていろんな形に見える。」
「天上が丸くなっていて気持ちいい。上を向くと穴が開いていて、紫色のような窓があって夜のように見える。」
「石のくぼんでいるところが人の形に見えた。」
「壁が大きくてびっくりした。絵に文字が彫られていた。壁が多く、自分が小さくなったようで、この作品が好き。」
自分の見たもの、感じたことを、それぞれ絵に描いてくれた子供たち。
最後のワークシート発表・質問の時間では、子供たちから、さまざまな感想のほか、ここで働く美術館スタッフに聞いてみたいこと、率直に感じた疑問も出てきました。
「なぜ石と鉄板を使っているんですか?」
「なぜシンプルな作品が多いんですか?」
「なぜ濃い色から薄い色になる作品が多いんですか?」
一言では簡単に答えられない、これらの疑問。
アーティスト・李禹煥は、どのように考え、なぜこのような作品をここ直島でつくっているのか。子供たちが抱いたこれらの疑問は、私たち美術館スタッフも日々考え深め続けている、答えのない問いであり、それは何度もこの場所に出合うことから少しずつ見えてくるものなのかもしれません。自然の中で現代アートに触れ、思考や感覚を問われる機会をもつことで、子供たちが自ら学び、主体的に考え、感じることに繋がれば――。そう願っています。
直島の子供たちにとって、私たち美術館スタッフは、親でもなければ先生でもない、あくまで第三者の立場に過ぎない存在です。しかし、こうした企画を通して、豊かな自然の中で作品に出合い、物事の本質に触れられる環境が身近にあるということは、継続して子供たちに伝えていきたいと思っています。
訪れる人が作品に向き合い、日本の原風景ともいえる瀬戸内の風景や地域の人々との触れ合いを通して、"ベネッセ―よく生きる"について考えるきっかけとしていただくことを願って活動を続けている、ベネッセアートサイト直島。直島で生まれ育つ子供たちには、こうした機会を通じて、日常の地続きとして美術鑑賞に親しみ、折に触れて作品に出合うことで自己の成長を感じ、身近なものをきっかけに視野を広げる機会にしてもらいたいと考えています。
同じカテゴリの記事
2024.10.11
大地は作品の一部である――ウォルター・デ・マリア《見えて/見えず 知って/知れず 》
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2023.08.10
隣接する公園と宮浦ギャラリー六区との関係
――開かれた交流の場を目指して
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2023.03.22
『対比』という言葉に導かれて――須田悦弘「碁会所」
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2023.02.10
寄稿「『時の回廊』で時間の回遊を愉しむ直島」山本憲資
「硝子の茶室『聞鳥庵』」が直島に降り立ち、しばしの時が過ぎた。ベネッセハウスでの...
2022.12.23
景観の一部として自然の中にあり続ける作品――杉本博司「タイム・エクスポーズド」
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2022.06.06
物理的な計測を超えたジェームズ・タレルの感覚的な尺度――《バックサイド・オブ・ザ・ムーン》
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...