「Well, come on stage!」
Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)インタビュー
瀬戸内国際芸術祭2016参加プログラムとして、豊島・檀山をステージとした舞台を秋会期に企画している、Nadegata Instant Party(中崎透+山城大督+野田智子)。
地域コミュニティにコミットし、その場所において最適な「口実」を立ち上げることから作品制作を始め、口実化した目的を達成するために、多くの参加者を巻き込みながら、ひとつの出来事を「現実」としてつくりあげていく――。「口実」によって「現実」が変わっていくその過程をストーリー化し、映像ドキュメントや演劇的手法、インスタレーションなどを組み合わせながら作品を展開しているアーティスト・ユニットです。
地域でさまざまな人を巻き込みながら、檀山、そして豊島の魅力を再発見し、深堀りする今回のプロジェクト。
芸術祭春・夏会期中を通してイベントや公開制作、ワークショップ、島の人へのインタビューなどを重ねながら、島にまつわるエピソードをリサーチし、その集大成として、芸術祭秋会期最終日となる11月5日(土)、6日(日)に地域の人々が主役となる舞台をつくります。(春会期イベントの様子はこちら)
9月3日(土)には、夏会期のイベントとして、夜明けにかけて檀山へ登山し、頂上で日の出を眺める「檀山サンライズ」を実施。あたりも真っ暗な早朝4:00集合、島内外から32名の方にご参加いただきました。
山頂付近の檀山・岡崎公園では、ヨガをしたり、朝食のおにぎりを頬張ったりしながら、朝の7:00には解散。
イベント終了後、Nadegata Instant Partyの3人に、現在のプロジェクト進行状況や、秋の舞台がどんなものになりそうか、少しお話を伺いました。
――今日のイベントは、やってみてどうでした?
野田:
まず、あんなに大勢の方が参加してくれると思ってなくて、素直に嬉しかったです。豊島島内の人と、島外の人、たぶん半分ずつくらい、いらっしゃった。人の交わる場が、豊島の中でも象徴的な檀山っていう場所でつくれたことが、よかったなと思いました。
――今、リサーチの一環として豊島の中でいろんな方にインタビューをされていると思いますが、「島の中の人」「島の外の人」をどう考えるかは結構難しい問題ですよね。移住した人は「島の人」なのか、そうでないのか。もともと住んでいる人と言っても限界がある。そのあたりは、インタビューの中で何か感じることはありますか?
中崎:
島の人にお話を聞いてると、「僕はまだ来たばっかりなんで」とか、「島民っていうほどでもありません」「まだ三代前からしか豊島に住んでないので、移住して来たってかんじですね」っていう話が出てきたりします。もちろん何代も前から豊島に住んでいて屋号があるとか、家をたくさん持ってるとか、そういうことはあるのかもしれないけど、それだけだとすごく先細りしていくような気もする。たまたま先週移住してきた人が、50年後には中心的に「島民」を引き継いでいる可能性もある。捉えどころはどこなんだろうって考えさせられるところがあります。別に島だけの問題じゃなくて、どんな場所でも考えられることで。共同体のことを考えるのに、すごくいいテーマだなと思いながら、話を聞いていますね。
――「檀山、豊島の魅力を再発見する」というところからこのプロジェクトは始まっていますが、「舞台」というかたちを想定されたのは、どういった理由があったんでしょうか?
中崎:
このプロジェクトのお話をいただいた時に、まずは、檀山や島の歴史の聞き取りをしたいなと思ったんですよね。教科書的な、年表的な一個の歴史ではなくて、世代とか、立場とか、住んでる地区、あるいは状況によっても、人それぞれ違う歴史を持ってる。実際、今豊島でいろんな人にインタビューをしていても、人によって言っていることが全然違ったりして。そういう、一口には片づけられない歴史性みたいなものをモチーフに、たとえ話みたいなフリをしながら豊島の状況を語り継ぐことができたら面白いんじゃないかなって。島のことを語り継ぐときのあり方のひとつとして、映像で残すとか、写真で残す、文章で残すというような感じで、一つの物語として状況を語り継ぐ。島の人から観たら、知った顔とか知ってる話がそこにあって、外からみるとある種のドキュメンタリーでもあるような、そんなつくりにしたい。このプロジェクトでは語り部的な残り方を目指しながら、それを作品としてつくっていきたいと思っています。
――もう舞台のタイトルも、だいたいイメージが付いているという噂を聞いたんですが...。
中崎:
まだちょっと借題ではあるんですけど、「てしましましま、あしがらがらがら」っていう絵本みたいなタイトルで、金太郎をモチーフにしたお話を考えていて。
ボーダーの「しま」、柄シャツとかの「がら」、手と足を掛けて、地名としての「豊島」と「足柄」も掛けている感じです。実際の豊島のドキュメンタリーとしてはある種いろいろ複雑なこともあるし、今インタビューで島の人に聞いていっている話を、全部本当の話として舞台をつくるんじゃなくて、あえて架空の場所として舞台設定を考えたい。ぶっとんだ設定や物語にしておいて、中身の構造や言葉に実際の話が出てくるようなつくりにしたいなと思ってます。
――今回の舞台は、地域の方々が主役になると聞いています。
中崎:
その点で実際、今ちょっと僕たちが直面してるところは、本番の2日間、ずっと参加していただけるような島民の方が少ないっていうことなんですよね。本番は芸術祭最終日の土日で、今お会いしているような豊島の人は芸術祭に何かしらのかたちで関わってたりするので。舞台の形式や練習時間も含めて、それをどういう考え方でクリアできるかっていうところは課題。
おそらく部分的には、今までインタビュー等で撮った映像を使ったり、もしかしたら歌の場面もあるかもしれないし、紙芝居や人形劇のシーンもあるかもしれない。もちろん演劇パートもあるけど、「演劇を見に行く」と思って観に来てもらうと、ちょっと違ったものになってる可能性はあるので、僕たちもあくまで「舞台」っていういい方をしてます。今いる檀山の岡崎公園周辺で、メインステージ1つと、サブステージが2つ、計3ヵ所くらいをスイッチしながら、お客さんごと移動して楽しむようなステージを考えています。夕暮れ時、まだ陽が明るい頃に始まって、陽が落ちるのが見えたりしながら舞台が展開していくイメージ。今日の「檀山サンライズ」のイベントは、景色の入り方というか、そういったところのリサーチも兼ねてた部分もあります。
――舞台を観ている人も、何かしらのかたちで参加していくことになりますか?
中崎:
よく、歌舞伎を観るときに「よっ!○○屋!」って観てる人が言ったりしますけど、そういうイメージで、コールアンドレスポンスみたいなものを仕込んだりとか。観客がステージ間を移動すること自体が、俯瞰したらひとつのシーンに見えるような、そういう仕掛けは少し入れたいなと思ってます。具体的にどういうものになるかは、まだわからないけれど。
山城:
「Well, come on stage!」って、「ステージに上がろうよ、上がってきてよ」っていうことで。檀山の中にステージを入れるんですけど、檀山自体がステージになってほしいなと思っています。檀山に上がること自体がもう、「Well, come on stage!」。
――普段、山城さんと野田さんは名古屋、中崎さんは茨城を拠点にされていて、他の地域でのプロジェクトもあるので、日常的に移動も多いと思います。場所が変わることで考えることが変わることもあると思うんですが、そういう観点から豊島を見た時に、皆さんから豊島はどんなふうに見えていますか?
中崎:
例えば、100万人の都市でプロジェクトをやったとすると、1万人に1人でも興味を持つ人がいたら、100人来てくれることになる。1万人のうち9999人は興味がなかったら来なくても、それでもプロジェクトは成り立つんですよね。でも、1000人も住んでない島で、100人の人に来てもらおうと思ったら、10人に1人が興味を持ってくれないと成り立たない。さらに言うと、人同士が繋がってるから、例えばある人が「あ、これ違うな」って思ったら、それで50人くらいいなくなったりする(笑)。だから、ポジティブに、「全員とらなきゃいけない」っていう緊張感はあります。
でも、そういう逃げ場のなさが逆に面白いところでもあって。ある種閉ざされた状況があるから、文化が生まれるっていうところもあると思うんですね。外部の情報がやや遮断されるから、独特の風習ができる。文化ってそういうもんだと思う。田舎に行けば行くほどそういうものなんだけど、やっぱり特に立地的に「島」っていうものに結びついてるなと。
山城:
境界線がはっきりしてるからね。
野田:
そう。匿名になれないっていう感じがありますね。交通手段としても、島の外に出るには、絶対に船に乗らなきゃいけない。精神的にも、心構えがいるというか、何かスイッチが入る気はする。
中崎:
匿名になれないっていう状態を、ポジティブにどう解釈して、面白がれるか。
今、島の人に話を聞いてまわってるんですけど、なんとなく感覚的につかめてきているところはあって。やっぱり1時間話した人とは、信頼関係とまでいかないけど、ただ挨拶しただけの人よりは、ぐっと近くなってる。例えばそういう人が30人くらい島の中にいるっていうだけで、僕らの居心地も春頃とはだいぶ違う状態にはなっています。
あと、昨日のワークショップがすごくいい感じで。旧豊島中学校の職員室を使わせてもらって、一応時間は決めながらも、出入り自由でやっていました。部活帰りの中学生も遊びに来てくれたりして。僕たちはよく、オープンラボみたいな感じのつくり方をするんですけど、そういう場をプレ的にオープンできたのはよかったと思ってます。10月の後半ぐらいから本番までの10日間くらい、今回のワークショップみたいに、いろんな人が入りながら作品制作していきたいなと思っていて。その時に向けての空気感は、今回つかめたかなっていう気がしています。
中崎:
1000人いない島で起こっていく社会的な問題、要は過疎化の社会の中で起こってくる問題って、本当に未来の話なんですよ。日本の社会の中でも先に、今この島で起こってる。それは実はここだけの話じゃなくて、日本のいろんな場所で、「ああ、そうだよな」って思うようなことが実は起こってると思うんです。
島の方に話を聞いていく中で、ハードコアなポリティカルな問題をはらんでいることも、もちろんたくさんあります。舞台ではそれらを、ものすごくオブラートにくるみまくって、グダグダな仕上がりに見えながらも、でも一方で、よくよく目を凝らして読み解くと、「そういうところからつくられていった作品なんだ」って思ってもらえるようなものにしたいですね。
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