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Benesse Art Site Naoshima
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in a silent way
[対談] 岡田利規×森山未來
(聞き手:キュレーター 長谷川祐子)
≪ 前篇 ≫

岡田利規と森山未來の共作によるパフォーマンスプロジェクト、「in a silent way」。瀬戸内国際芸術祭参加プログラムとして、8月23日(火)から直島のベネッセハウス ミュージアム内で上演されています。上演を目前に控え、滞在制作中の直島にて行われた対談。今回の前篇に続き、公演終了後に後篇を公開予定です。あわせてご覧ください。

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長谷川祐子(左)、岡田利規(中央)、森山未來(右)

長谷川:
今回共作をお願いしたのは、東京都現代美術館での展示「新たな系譜学をもとめて」注1で、お二人に参加していただいたことがきっかけです。その時、お二人に共通して思ったことがありました。岡田さんは演劇の演出・振付をされていながら、それがダンスの賞の候補に挙がるなど、「動き」や「言葉」を従来の演劇の型とは関係なく、柔軟に考えることに非常に関心が深かったこと。そして森山さんは、さまざまなウェブに流れている動きやイメージから、「何でもダンスになりうる」という、つまり日常の人の動きや例えばゴミ袋が舞っている様子――、ありとあらゆるものからダンスを読み取り、ダンスというものを非常に広範に考えていらっしゃる印象を持ちました。共通しているのは、日常の動きや出来事から、どのように意味や動きを読み取っていくのかということについて、新しい考え方を感じたことです。そういった経緯で、ベネッセアートサイト直島で何かパフォーマンスができないかとお話をいただいたときに、お二人を提案しました。
今回初の共作になりますが、お互いにそれぞれのお仕事にどういう印象を持っているのか。会ってお話になって、どういうところが共感できたのか、最初の出会いなどからお聞かせください。

森山:
以前から何度もお話してることではあるんですが、僕は、チェルフィッチュ(※岡田氏主宰の演劇ユニット)の公演はずっと前から何回も観ていました。演劇の中でも、チェルフィッチュ以前/以降みたいなことがありますよね。岡田さんがチェルフィッチュの中で提示したものって、僕はすごく大きいと思っていて。僕はミュージカルみたいなことをやるのも非常に好きなので、音楽、身体、言葉あるいはお芝居、それらがどういう繊細さと大胆さでもって構築されていくかということは、本当に大事だと思っています。日本でミュージカルをやるとなった場合、だいたいにおいて、海外からインポートしてくるものが主流になる。そうなった時に、いわゆる文化がもちろん違うから、芝居から音楽に入る、芝居からダンスに入る、その「フィクションに飛んでいく過程」というものが、なんかすっぽり抜け落ちてる感じがするんですよね。チェルフィッチュを観たときに、芝居から音楽がどう入ってきて、身体がどういう風に膨らんでいって...といういわゆるフィクションに飛んでいく、飛躍していく、その助走部分をずっとやり続けてる人、そこを模索してる人だっていう印象がすごくあって。「あぁ...、宝だ」って思ったんですよ。何度も見たんですが、常に実験的なことをしているなっていう印象があります。僕は、最初に観たときからそれを受け取ったので、それからずっともうゾッコンだったんですけど。だから、今回やらせてもらうのは非常に嬉しいですね。

岡田:
僕は基本的に、有名な方っていうのに警戒心があって(笑)。一般的にですよ、森山さんがということではなく。だから実際に会わないと、やっぱり怖いんですよね。でも会ってすぐ、「あ、大丈夫だな」って思いましたね。つまり、柔軟だっていうことですよね。僕は、「自分がこういうことをやりたい」「こういうことを大切にしたい」というところがシェアできないことには、その人がたとえどんなにすごいと言われていたり有名だったとしても、それを僕が活用できないと、本当にどうしようもなくなっちゃうので。
僕のチェルフィッチュを何回も見に来てくださっていることは知ってたんですけど、そのことよりも、僕にとっては、お会いして、お話して、何に関心があるかを話していく中で、フレキシブルな人なんだっていうことが本当にすぐわかったので、「これは面白いことになるぞ」と思いましたね。
あと、森山さんは"鍛えられてる"。演技に関しても、身体に関しても訓練を受けられている人ですが、そういう人とやるのは、僕にとっては普段とは違うことで、チャレンジであり、いい機会だなと思いました。その話と繋がるようであり、別の話なんですが、いい俳優、いいダンサーはそれぞれいても、それが重なってる人はあまりいない。特に日本人、日本語を話す人ではいないんです。だから、やる前から楽しいことになるなと思ってたし、実際今すごく楽しいですね。


島での滞在制作について

長谷川:
今回前提として、「島でやっていただく」ということがありました。公演場所として、最初に犬島を見て、その後、豊島、直島を候補としてロケハンし、最終的には直島のこのシリンダー状のスペースに決定しています。
場所としては、島であるということと、それに加えて特殊な空間でやるということがあったと思います。そして、福武さん(※公益財団法人 福武財団 理事長 福武總一郎)にお会いした際に、「辺境から、辺縁から中央に向かって新しいメッセージを発信する」という、いわゆる"革命"のお話がありました。そうした経過の中で、さまざまな考えが出てきたと思いますが、お二人の間ではどんなお話があったんでしょうか。

岡田:
これまでの体験を僕の目線で話すと...。下見の時に犬島、豊島、直島を見せてもらったんですね。最終的には直島のベネッセハウス ミュージアムのシリンダー状の空間になりましたけど、それが決まるまでいろいろ見せてもらったいきさつがあって。そうしたプロセスがあって最終的にここに決まったことは、すごくこの作品の糧になってるなと感じるんですよね。例えば豊島美術館を見て、その後福武さんにお会いしたことの中で、僕は、あの豊島美術館の空間が、紙風船をひっくり返すみたいにひっくり返ったら面白いんじゃないかと思ったんですよ。

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森山:
そうですね。その時点で、すでに言ってましたよね。

岡田:
そういう作品をつくれたらいいなと思っていたんですが、そのアイディアは今も生きていて。生きているというか、もろ作品の一部分になってます。ロケハンの後、帰りの電車に未來さんと一緒に乗って、いろいろ話しましたね。

森山:
ブレインストーミングじゃないけど、とにかく何か出てくるものにまかせて、ばーって、僕は喋ってた記憶がある。

岡田:
あの時間は大事でしたね。なんせ、その時に初めてちゃんと喋ったので。そこで考えてることがわかったのはすごく大きかったです。

森山:
経緯でいうとそういうことですし、やっぱり福武さんが仰ってた"革命"ということに、岡田さんが強く反応した。そこが、今回のパフォーマンスのテキストの軸にはなってると思います。
あとは、今回、瀬戸内国際芸術祭で参加させてもらって、こっちで滞在して制作するということなんですけど。いわゆる辺境から中心に何かを発信することに対して、岡田さんがどういうふうに考えてるのか、まだちゃんと聞いたことないですけど...でも絶対あると思うな。僕はイスラエルに行ってから特に感じたことがあるんですが注2。帰ってきて、松山の内子座とか、いろんな地方で滞在制作をするということに対してすごくイメージがあって。都市部、例えば東京っていう場所でものを制作するっていうことは、もちろんさまざまな文化がそこに集中してるわけだから、力強いものがもしかしたら生まれるかもしれないですけど、ある種すごく効率的なものになってしまうというか。都市であるということ以前に東京という場所が持つ空気は、それはそれであると思うんですが、やっぱり日本は東京だけじゃない。都市だけじゃない、さまざまな場所にその土地固有の文化、考え方、宗教的なもの、あるいは仏教とか神道とかそういうことだけでは括れないものがある。日本でありながらも、ある種違う文化として、そこの何かを拾い上げながら作品に昇華できたり発展させられるのって、すごく大事だなぁと思ったんですよね。海外にいたからこそ、日本をもっとちゃんと見なきゃって思ったし、日本人であることをすごく意識した。逆に僕がもっと日本のことを知らなきゃいけないと思ったっていうのがあります。なので今回のクリエイションに関しても、岡田さんのテキストや、岡田さんの考え方、やり方、あとやっぱり瀬戸内っていうものに、眩暈めまいを覚えながら作品に関わってる感じがすごくしますね。

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岡田:
それは、僕はもちろんここでも感じてます。でも、やっぱり僕にとっては、5年前に東日本大震災があって、それをきっかけに九州の熊本に移住したことがすごく大きい。その時に、同じようなことはとても感じて。滞在制作は今回が初めてではないんですが、「どういう場所にいるのか」ということは、どうしようもなくすごく大きな影響を与えるんだなっていうことを痛感し続けてるここ数年間なんです。だから、ある種の期待も持てるようになってきてるんですね。例えば、今度は直島で制作ができる、そうしたらその直島にいるということがきっと何かになるって。それは実際その通りなんですよ。自分から力を出してるっていうよりも、いろんな力を使ってつくってる気がしてます。いつもそうですけど、今回は特にそうですね。直島という場所もそうだし、下見の経験や、その時に福武さんにお会いしたこと。そういったことと、僕の5年前に移住した経験や、今回一緒に仕事するパフォーマーが森山さんだということが全部結びついている感じがします。
さっき、"訓練された身体"という話をしたんですが、ダンスでいえば「何が面白いダンスか」というときに、別に訓練されている身体である必要はないわけですよね。誰だっていいわけです。ただ、その動きってものが、人にある力、「それはいいダンスだな」とか「これって素敵だな」っていうのとは別の、もう少し権力的な力、そういったものが人に作用を与える。そのためには身体は訓練されている必要がある。訓練されてたほうがいい。そうなった時に、どうやって人間を変化させていくか。"革命"ということを今回の作品はそういうふうに捉えています。それを引き起こせる身体、そういう作品をつくるためのパフォーマーが森山さんだということは、森山さんだから僕もそれをやれるなと思ったのかもしれません。ちょっとそこの順序は定かじゃないんですけど。そうでなかったら、作品を説得力のあるものにできるかなぁ...っていう不安は、ずっと付きまとったと思うんです。そういうことが全く無くここまで来ているのは、それがすごい大きいですね。


"鍛えられた身体"によって力を行使する

森山:
岡田さんは、結構、匿名性を大事にしてる感覚があるんですか?

岡田:
あるのかもしれません。ただ、もうちょっと言うと、鍛えられてる人の動きを見ても、あまり面白いと思わないっていうのがあるんですよね。「私はこれだけのことができます」ってことを見せられても、それは競技とかとしては、「すごい!!」っていうのはあるんですけど。例えば「自分はできません、すごいですね」というのはあるけど、それとこれは別なので。そういうふうに思わないっていうのはあったんですよね。

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森山:
コンテンポラリーな作品でもいろいろあると思うけど、でも今話されていることはすごくわかります。例えばバレエとかストリートダンスってすごく同等な感じがしていて。テクニックは素晴らしいし、見た目も美しい。でも、30秒とか1分の間、人を釘づけにする力はあっても、1時間やり続けて釘づけにする力ってないと思うんですよね。それは、すごく競技的というか、一つの技で感嘆させるっていうことで終わるんだけど。そこにもう一個、今回のクリエイションでもよく使われていた、コンテクスト、文脈みたいなものが流れてないと見続けられない感覚は僕もすごくあるので。

岡田:
でも、そういうふうに思ってたのが最近は僕も少しずつ変化してきていて。「すごく鍛えられた人の動きを面白くするっていうことだってできるんじゃないか」ってことですね。なんか一周まわって何言ってるかわからない感じですけど(笑)。でも自然な流れで、そういうようなことも考えるようになってきてるんですよね。

森山:
チェルフィッチュの、あのコンビニの話...タイトル出てこないんですけど注3。あれ見たときも、結構、踊る人がしっかり踊るシーンもつくってたじゃないですか。いわゆる所作からすごく離れて飛躍して、しっかり踊っちゃう瞬間があったりとか。なんかイメージを持ち始めてるのかな、みたいなのは感じましたけどね。

岡田:
演出って結局、見た人に対して力を行使するっていうことなんですよね。パフォーマンスなりあらゆることで。「こういうふうにすると観てる人に対して影響を行使できる」ということで。それが起こればいいというふうに、考え方も変わってきてるんですよ。でも、それができるようになってくると、自分がやってることがすごく危険なことをやってるなって思います。悪用しようと思えば何でもできちゃんうんで。それに、怖くなったりドキドキしたりするんですけど。今回の作品にも、もちろん反映されています。

長谷川:
いつ頃からそういう感じをもっていらっしゃいますか?

岡田:
たぶん6年前くらいから。自分はそういうことができるようになってきてるなって感じた時に、「これは、悪いことしようと思えばできるぞ」って思い始めたのは、結構自分の作風の変化と関係してるかもしれないですね。僕、たぶんそういう意味では、やろうと思えば総理大臣のお役に立てると思う(笑)。

長谷川:
そういう意味では、今回初めて、森山さんというトレーニングされた、カリスマティックな役者さんと制作されるのは初めてだと思うので、その危険度も、影響力という意味では高いと思うんですね。それは私にとっても、とても面白い部分です。


共作のプロセス

長谷川:
岡田さんが振付される時に、「相手に対して何か出来事を起こすように」、つまり「その場で何か起こしてください」と仰るんですが、具体的なことを言いながら森山さんの直観やインプロビゼーションに任せる部分があると思います。今回一緒に仕事されてみて、そのあたりはいかがですか?

岡田:
僕はいつもそうなんですが、具体的に「こういう風に動いてくれ」とはほとんど言わなくて。それを言っても僕が欲しいものはそれだけでは来ないから。僕が欲しいのは、例えば、「今、ここをひっくり返してください」ってことなんですよね。でもそれだけではひっくり返せないんで、そこはもう少し具体的に「それをやるためにはどういうことをイメージするか」ということまでは言います。そのイメージから生まれた動きを作り出すということと、それで実際に動くってことと、2つはどっちも大事な別のことなんですけど。でも、それはイメージを持たないと絶対にできない。やる人が持たないとどうしようもないんですよ。そこはすごいですよね、未來さんは。まず最初の理解が早いし、早いだけじゃなくて、昨日よりも今日、今日よりも明日っていうように強くなってくんですよね。

森山:
抽象性というか、身体がどこまで飛べるか、そこから何を拾えるかっていうことを信じられてないと対話としても成り立たないというか。この感覚を岡田さんが持ってるのは知ってたんですけど、そういう対話が成立するっていうことが僕にとってすごくよかった。岡田さんが言っていた振付としての提示ではなく、全体の姿勢とか居方とか居住まいで何が見えてくるか、浮き立ってくるか、というものを見たい。このダイアログは僕にとってこれからも大事なものになっていくなと思います。ダンス作品とかパフォーマンスは、スタイルにとらわれずに作品をつくりたいと思っても、どうしてもそこを通らずにはいられないというか、恐怖心みたいなものがどうしても発生してくる。でもチェルフィッチュを見てる時に、常にそういうものを軽々と越えているように僕は見ていたので、岡田さんの眼差しが身体を通ってることっていうのは、重要だなって僕は勝手に思ってますね。

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ベネッセハウス ミュージアムでの稽古の様子

岡田:
僕の中で、今回の作品はもちろんダンスなんですけど、ダンスとはあまり思ってないんですよ。というのは、これはとにかく「力の行使」で、見る人に対しての力の行使、それを助けるもの、それに寄与するものとしての動き。その動きがあったほうが、ない場合よりも、見てる人に行使される力が強いというか、浸透度が強くなるための動きだと思ってやっています。そういう基準だから、これはダンスとして良いかどうかという基準とは、僕の中では微妙に違う。本来で言ったら、真面目に言えば、もっと人の「自由」や「喜び」、そういうもののためにあると考えるのが筋だと思うんですけど。それよりも、「コントロールする」「意のままにする」「持っていきたいほうにする」。ディレクションって、つまり「あっちに行け」って言って、あっちに行かせることだから。今回の作品は、そういうものになっていると思います。(※後篇へ続く)

【注釈】
注1:東京都現代美術館にて、2014年9月27日から2015年1月4日にかけて行われた企画展(キュレーション:長谷川祐子)。
注2:森山氏は、文化庁文化交流使として2013年秋より1年間、主にイスラエルに滞在、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックダンスカンパニーを拠点に活動している。
注3:「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」。現代日本人の「聖地」であるコンビニエンスストアを舞台に、バッハの『平均律クラウヴィーア曲集第一巻』全48楽章に乗せて、ユーモラスに「現在」を描いたチェルフィッチュの音楽劇。

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