夏会期から新たに公開された、
クリスチャン・ボルタンスキー「ささやきの森」
瀬戸内国際芸術祭2016夏会期がスタートした7月18日、豊島に新たに、クリスチャン・ボルタンスキーによる「ささやきの森」が公開されました。
豊島・檀山の中腹にあたる森林の中、400個の風鈴が風に揺れ動き、静かな音を奏でるインスタレーション。風鈴の短冊には、これまでに訪れた方の「大切な人」の名前が記されています。風になびく音は魂の神秘性を思わせ、無名の個人を記憶に留め、人間存在の強さや儚さを表現します。鑑賞者は、新たに自分の大切な人の名前を残すことができます。
人間の生と死をテーマに作品をつくり続ける、クリスチャン・ボルタンスキー。人々が生きた証として心臓音を収集するプロジェクトを2008年から展開しており、これまで氏が集めた世界中の人々の心臓音を恒久的に保存し、それらの心臓音を聴くことができる施設として、2010年、豊島の唐櫃浜に「心臓音のアーカイブ」が開館しています。作家は、今回新たに公開する「ささやきの森」を、「心臓音のアーカイブ」と補い合うものと位置付け、豊島に新たな巡礼の地をつくりたいとの思いのもと、本作品を構想しました。作品が設置されている場所は、作家の意向通り、ほとんど手を入れられることなく、元あったままの姿で鑑賞者を迎えます。
公開に先立ち、作品が設置される豊島に住む方々に「大切な人」の名前を残していただこうと、7月2日に島民登録会が行われました。
登録は、ひとりにつき一枚限り。登録できる「大切な人」は一人です。
真っ先にお子さんの顔を浮かべる方、ご夫婦でお名前を書きあう方、ご家族以外のかけがえのない方のお名前をお書きになる方。それぞれに思う、一人の人から別の一人の人に込める、一対一の「思い」があります。登録されるお名前は、生死は問いません。作家の認識としては、「魂としては、生きている人も死んでいる人も変わらない」。生きている期間はわずかでありながらも、亡くなった後、魂はずっと残り続けます。登録されたお名前が刻まれた風鈴の音が、その人の魂の象徴として森の中に響きます。
鑑賞者は、現地で自分の大切な人の名前を登録することができ、後日、名前は書かれた文字のまま短冊(プレート)に刻まれ、作品の一部となって風に揺れ動き始めます。
公開初日となる7月18日、来日したクリスチャン・ボルタンスキー本人による、アーティストトークが行われました。作品コンセプトから、作品と自然との関係性や、「巡礼」というキーワードについて、さらには作家が表現を考えるうえでの根本についても触れるトークとなりました。トークの内容は、こちらからご覧いただけます。ぜひあわせてご覧ください。
同じカテゴリの記事
2023.05.15
夜を徹してつくられた継ぎ目のないコンクリート・シェル構造の屋根――豊島美術館
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2022.01.25
"究極のコラージュ作品"
「針工場」の船型が逆さまに置かれた理由とは?
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2022.01.12
自分だけではわからなかった仕掛けやおもしろさに気付く
「豊島・犬島鑑賞ツアー」体験レポート
朝9時、直島の宮浦港。これから仕事が始まる人、観光に胸躍らせる人、さまざまな人が...
2022.01.12
人々の記憶を保存 する―「心臓音のアーカイブ」
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカ...
2022.01.10
「嵐のあとで」~「ストーム・ハウス」感謝会~
作品が巻き起こした豊島での軌跡
ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーによる「ストーム・ハウス」は、...
2021.11.18
豊島での「出会い」や「記憶」を形に。
『針貼工場 』コラージュワークショップのレポート
豊島の針工場では、2021年8月~11月までの開館時間に、お子様から大人まで楽し...