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Benesse Art Site Naoshima
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犬島パフォーミングアーツプログラム
公演直前インタビュー
MuDA「MuDA 鉄」

「犬島パフォーミングアーツプログラム」の第一弾となる、ハイパーパフォーマンスグループ「MuDA」の新作「MuDA 鉄」が、今月29日から3日間上演されます。メンバーは舞台設営や作品制作のため、7月19日から犬島に滞在しています。今回は公演を6日後に控える、ディレクターでダンサーのQUICKさんに、公演への意気込みや作品の詳細について、お話を伺いました。

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MuDAのディレクターでありダンサーのQUICK

――昨年から幾度も犬島を訪れ、滞在し、そして完成する作品「MuDA 鉄」。公演まで1週間を切りましたが、今の心境は?

QUICK:
初めてのことが多いので、今までで一番のことがしたいと思っています。島というロケーション、舞台の規模、制作期間。犬島のこれまでの歴史、維新派の故・松本雄吉さんのこと。色んな思いが複雑にあります。伝えなければいけない内容、その伝え方にまだしっくりきていない部分がありますね。
今までの公演会場は、屋外が7割ぐらいですが、島での公演は初めてです。犬島については、カラミ煉瓦や煙突を含めた光景が印象に残っています。島を離れる時、目の前には海が広がっていて、その背景には遺構がある。何回観ても、「おー、すごいな」って。でも島内の端から端へすぐに行ける、小ささも特徴的だなって。僕は京都生まれ京都育ちなので、島にまだまだ全然慣れない(笑)。そしてちょっとした悲しさも感じます。終わっていったものがあるという。それは勝手な想像というか切なさなのですが。

――今回の作品「MuDA 鉄」について、ご紹介をお願いします。

QUICK:
ストーリーはありません。製錬所跡地に設置される、金網で囲んだプロレスのリングような舞台上で、男たちがせめぎ合います。舞台の床と観客の目線が同じ高さなので、人と人の衝突、その衝撃を目の前で感じることができます。舞台は金網に囲まれてるので、人が突っ込んできそうになる"きわ"を観てもらいたいです。人がガーンとぶつかってくる感じ。僕らも興奮するのは、中盤の、発射台を使って約8メートルの高さのところから物体を発射するシーン。

――鉄をキーワードに置く理由は?

QUICK:
いきなり宇宙の話をしますが(笑)、鉄は宇宙誕生と同時に始まった核融合の最後の姿で、原子核の構造はもっとも安定していると言われています。

――この安定するまでの経緯はすごいですよね。137億年前に起きた大爆発「ビッグバン」で物質が何もない状態から、ヘリウムの原子核ができて、核融合によってエネルギーが生み出され、今も地球に存在する数々の原子が誕生していきました。やがてこれらの反応は、最終的に鉄に収れんされたため、宇宙に鉄が多いともいわれていますね。
同時に鉄は、生命活動にも欠かせません。体内に酸素を運びエネルギーを生み出す鉄たんぱく質「ヘモグロビン」、呼吸、光合成、DNA合成、呼吸など生命活動にも欠かせないですよね。確かに鉄って、重要ですよね。

QUICK:
それでも宇宙のこともほんの1%ぐらいしか分かっていないはずなんです。残りの分かっていない99%に重要なことがあるはずで、その中に普遍的な何かがあって、向かう方向があるんじゃないかなって。今の時代、皆が「自分は自分だ」と意識して、"自分の生き方"を生きられる状況ができてきたと思う。でも、「自分だ」で完結している。「これは君に任せた。ここは俺がやる」というように、それぞれの人生に向かう方向があって、さらに大きなベクトルでもって、全体が向かうべき方向があるはずだと思っています。その人をその人のありのままを認めるというより、僕の感覚なんですけど、確実に、仮にこの人のあることの基準値(意識)が高ければ、自分はそこに合わせに行ったほうが確実によい。だから相手に自ら挑む。それを示したい。

――以前、日本経済新聞の記事(2016年3月4日夕刊)で、パフォーマンスの基本的な動きである「せめぎ合い」と「反り倒れ」について、「人は倒れても倒れても立ち上がることを表現したい。僕たちは立ち上がるために倒れている」とおっしゃっていました。

QUICK:
今回の公演でも一番観ていただきたいシーンです。立ち上がることを示すために、いっぺん倒れる。気を失って倒れているのではなく、「"そこ"に挑んでいく」「"そこ"に向かっていく」ために倒れるという感覚です。この衝撃をもらって、立ち上がっていきます。
衝撃は自分ひとりでは生み出せないんです。このエネルギーは、負荷がないと出せないんですよ。そういうことは全員知ってることだと思うんですけど、例えば、今、舞台設営でも現場で組んでいくと、色々な問題がたくさん出てきます。「あ、どうしよう...」ってなりますが、皆で考えて、「あ、こうしよう!!」となった瞬間、前より格段に状況はレベルアップしています。知恵を得て、やり方を分かり、しかも皆が何か一緒になるドライブも生まれている。それはその負荷があったから、次の段階に進めたんだと思うと、全く怖くない。全く怖くなくて、そういうものがあれば次に行ける。もし問題がやって来ても、そいつのおかげで次に行ける。当然進みづらくて大変なことですが、その負荷を転換し立ち上がり始めることを続けることができれば、どんな状況でも進んでいけるんだというのが、自分らの表現で示せたらと思っています。

参考動画:MuDA × Humanelectro「SPIRAL」ダイジェスト映像


――昨年から5回にわたり来島され、島の人にも顔を覚えられたんじゃないですか。

QUICK:
島の方のお宅に呼ばれて、ご飯をご馳走になったりしました。犬島の安部町内会長からはいろんな話をお聞きして、これまでに維新派が4回公演されるなかで、触れ合いながら(つまり接触ですね)、人間関係を築いていらっしゃったことなどを教えていただきました。「お前は白い時は(メイクをしていない時は)、こういう顔やな」と少しずつ認識していく。だから「1回来ただけでは分からん」と。当たり前ですが何度も触れる回数を重ねることでしか、相手を認識する方法はないと思います。繰り返し重ねていかないと駄目なんだなと思いました。

――犬島でカラミ(銅製錬の際に銅にならずに残った鉄を含有する物質)を扱うのは、「鉄」が活動のキーワードだからですか。

QUICK:
最初に訪れたときです。僕らと共通していると感じた犬島のキーワードはカラミでした。犬島製錬所は、銅を製錬するためにあって、製錬過程で発生するカラミはその当時はいらないものとして捨てられていた。そして、後に戦争で鉄が必要とされていったという史実と重なってきて。MuDA(ムーダ=無駄)というコンセプトとも繋がったんです。
表向きには見えないこと、分からないこと、排除していること――。つまり無駄とされていることにも、本当は重要なことがたくさんあるんじゃないかと考えています。無駄とされていることは、決して無駄ではないと、なんとなく分かっているつもりでも、やっぱり目に見えているものを信用してしまう。でも、実は今分かっていないことの中にも、本当は重要なことってあると思うんです。宇宙から見たら、人間の信じているものの確率なんていうのは、1%のまやかしやおまじない程度という場合もあるかもしれない。人間は、その時々で都合のいいものを信じていたりする。そういう部分に、カラミが非常にリンクしたんです。

――元々はブレイクダンスをされていたと聞いています。

QUICK:
ダンスをやり始めたのは15歳の時。ずっと回転してました。18歳のときにアメリカの大会に出場したんです。YouTubeのない頃だったのでビデオを観て研究してやろうとしたことを、12歳くらいの子が会場で簡単にプレイしたんです。「今まで何やってたんや!!」って。大会ではよい成績をおさめたんですが、「このままじゃいかん。人のまねをせず、自分で考えたことをしないと」って考えるようになりました。ここでも負荷がかかって変えようとしたんです。
大体の場合、20歳ぐらいの運動能力が全盛期ですが、それが全てではないんです。踊りとかダンスとかアートとか、そのものは、死ぬまでずっと続いていきます。死ぬ直前が一番いいはずなんですよね。それまで日々、その方法が変わっていくだけの感じがして。そういうことを色んな方に出会い、教えていただいたり、後押ししていただいたり、そういうことがたくさんありました。
そのお一人が維新派の故・松本雄吉さんです。2012年に僕らが優勝したコンテストの審査員をされていたのがきっかけなのですが、僕らを気にかけてくださるようになりました。それからたくさんの見えないところでの後押しをいただいて。でも大きく言っていただいた通りに「こんなふうになりましたよ」って、観てもらっていないんです。皆が知ってる存在になれば恩返しも少しはできるのですが、今はただ中途半端な存在でしかない。それが悔しくて、僕の勝手で一方的な想いですが、だからこそ、ちゃんと状態として示したいと思っています。

――観に来てくださる方へのメッセージをお願いします。

QUICK:
きっと、この瀬戸内や犬島の歴史にちなんだ表現は、既に色々な方がなさっていると思っています。だから僕たちなりの示し方があると、もっと違う示し方があるんじゃないかと考え抜いたことが、今回の作品になりました。僕たちの、ここでしかできないマックスのことができたらと思っています。
緊張は、開演直前にするタイプで、絶対します。「帰りたい!」って思うぐらい。その最強のやつが絶対来るんでしょうね(笑)。

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