人と人との出会いがあるミュージアム

親しい友人のようにお客様をお迎えする

ホテルと現代アートの美術館が一体となったベネッセハウス ミュージアムでフロント業務に携わっている志村正義さん。直島生まれ、直島育ちの志村さんは、2001年からベネッセハウスで働きはじめ、今年でちょうど20年目を迎えます。ホテルのお客様の中には、志村さんに会うことを目的に宿泊される方も多くいらっしゃるそうです。

「フロントで働いているスタッフの中で年寄りは私だけだから、皆さんが憶えてくださるのだろうと思います。年を取ってる分、得をしていますね(笑)。去年はコロナのため来られなかったのですが、イギリスから17年間、毎年来てくださる方もいます。私は英語ができないし、彼らも日本語は話せない。それでもずっと親しくさせていただいていて、不思議ですね。日本人の方でも、直島国際キャンプ場の時代からずっと来てくださっている方が何組もいらっしゃいます。私には都会のホテルのようなスマートな対応はできないから、親しい友人が来たような感じでいつもお客様をお迎えしています。『志村さん、元気?』ってお客様が憶えてくれていると嬉しいですし、それだけで元気をもらえますね」

2021年でベネッセハウス勤務20年目を迎えた志村正義さん。
今年でベネッセハウス勤務20年目を迎えた志村正義さん

アートを通じて人と人との出会いを楽しんでほしい

志村さんは15歳の時に直島を離れましたが、55歳で定年退職した後、故郷の島に戻られました。2001年からベネッセハウスでナイトマネージャーと施設管理の仕事をし、2005年からフロント業務をされています。志村さんがベネッセハウスで働き始めた当時は、まだ地中美術館も建っておらず、直島の本村地区で展開する家プロジェクトも「角屋」、「南寺」、「護王神社」の3軒のみでした(現在は7軒)。

「もともと直島は三菱マテリアルの製錬所の関係者しか来ないような島で、私の父親も製錬所に勤めていました。そこにベネッセハウスが建ち、アートに興味のある方が少しずつ来られるようになって。海外からも、アメリカやフランスから団体で来られるお客様も多かったです。それから家プロジェクトが始まり、スタンダード展が2回あって、2010年に瀬戸内国際芸術祭が開かれて、徐々に若い人たちが多く来られるようになりました。それまでは、この島に若い人なんかほとんど来なかったから。昔は島に飲食店も全然なくて、生協で買った菓子パンをかじりながら家プロジェクトを回られてましたね(笑)」

ベネッセハウスにはミュージアムの他、オーバルビーチパークと4種類の宿泊棟があり、それぞれ異なったロケーションやコンセプトが楽しめます。中でもたくさんのアーティストの作品が鑑賞できるミュージアム棟が一番好きだと志村さんは話します。

「時々、大竹(伸朗)さんや須田(悦弘)さん、柳(幸典)さんらが顔を出してくれて、世間話をしてくれるので、そういうところが楽しいです。大竹さんなんて夜の2時ぐらいまで一緒にお酒を飲むこともありますから(笑)。みんな仲良くしてくれるので、本当に嬉しいですね。ベネッセハウスは地中美術館や李禹煥美術館とは違った、ある意味リラックスした雰囲気があると思います。特にミュージアムは美術館の中に宿泊施設があるという特殊な場所なので、アートのことや島の自然や歴史など、いろんなことをお客様とスタッフが話す機会も持てます。宿泊したお客様同士でもお話をされたりとか。今はコロナもあり難しいですが、ミュージアムはアートだけではなく、人と人との出会いがある場所です。アートを通じてそういうところも楽しんでもらえたらと思います」

ベネッセハウス ミュージアム
ホテルと現代アートの美術館が一体となったベネッセハウス ミュージアム

ゆっくり向き合っていると、作品が何かを語りかけてくれる

フロントという仕事柄、直島や豊島、犬島のアート作品をどう観て回れば良いか宿泊されるお客様から相談されることが少なくないという志村さん。ベネッセアートサイト直島には数多くのアート施設や屋外作品がありますが、「一度に全部の作品を観ようと思わないで」とアドバイスしているそうです。

「『今回はここだけって決めてゆっくり観てください』とお伝えするんです。『また直島に来る機会が絶対ありますから』って。無理に全部を観て回ろうとすると、何を観たか記憶に残らないし、忙しくて疲れるばっかり。全部観たから直島はもういいや、疲れるからいいやってなっちゃう。でもベネッセアートサイト直島は、時間帯や天候によって作品が表情を変える場所だから、そこに気づいて楽しんでいただきたいんです」

瀬戸内ならではの美しい景観と穏やかな気候の中、静かにアート作品と向き合うことで、初めて何かを語りかけて来る作品があると志村さんは言います。ベネッセアートサイト直島へ訪れたお客様には、都会の美術館ではなかなか体験できないようなゆっくりとした鑑賞時間を味わってほしいと志村さんは考えています。

「そうやって作品と向かうと、もっと現代アートに興味を持っていただけると思います。現代アートって何が何だか分からないような作品もたくさんありますからね(笑)。でも、ゆっくり向き合っていると、そのうち作品が何かを語りかけてくれることがある。これだけの数の作品があるんだから、強烈な印象を受ける作品が必ずあるはずなんです。その時は何も感じなくても、一年後には違う感じ方ができるかもしれない。お客様とそういうコミュニケーションを取りながら、次またお会いして感想を聞かせていただくと、私たちも嬉しいです。ベネッセアートサイト直島に来たら、そういう楽しみ方をしていただきたいと思います」

宿泊のお客様と景観やアート作品についてお話する時間が何より好きだという志村さん
宿泊のお客様と景観やアート作品についてお話する時間が何より楽しいという志村さん

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