The Naoshima Plan 2019 「水」を運営した直島町民のみなさんにお話をうかがいました
瀬戸内国際芸術祭2019の期間中、直島の本村地区にて三分一博志さんによる展覧会、The Naoshima Plan 2019 「水」(以下、「水」展)が開催されました。築約200年の旧家を改築して開かれた「水」展では、本村地区の建築に古くから伝わる、井戸水を集落の共有資源として大切に利用する「水のリレー」という考え方に三分一さんが顕在化し、水を介した来島者と島民との交流の場(井戸端)を生み出しました。107日間にわたる芸術祭の会期中に、「水」展には10万人を超える来場者が訪れています。
「水」展の運営スタッフとして、直島の町民の方々が参加してくださいました。直島の皆さんにとってどのような展覧会となったのでしょうか。今回の記事では、直島町民の西忠彦さんと佐々木紀子さんに「水」展を振り返っていただきました。
「古い建物を活かしながら、新しく魅力を増している」
「個人的な感想としては、長かったですね(笑)」。芸術祭をそう振り返る、直島町民の西忠彦さん。実は「水」展の舞台となった旧家は、西さんにとって親戚筋にあたる方のお宅だったそうです。
「祖父同士が兄弟なんですよ。小さい時からよく「水」展の家には来ていて、住んでいた方とも6年ぐらい前まで一緒にここで飲んでいたぐらい、よく知ってます。だから、個人的な思いも含めて、この「水」展に携われて良かったと思っています。ここに住んでいた方も今は高松に出ていらっしゃいますが、この展覧会が始まると聞いて喜んでいました。珍しい建物ですし、2019年の芸術祭の中でもかなりユニークな施設じゃないかと思いますね」
西さんをはじめとするスタッフは、「水」展の建築の説明はもちろん、テーマとなっている直島の風の流れや水の動きについて、島民ならではの解説を行っています。
「海外の方は、特に庭が新鮮みたいです。日本の方でも、若い人はこういう家は初めてだとおっしゃる方が多いですが、お年寄りは『懐かしい』と言う。その両方の感情が生まれるのもここの面白さですね。福武理事長(ベネッセアートサイト直島代表)がよく言われる『在るものを活かし、無いものを創る』というのはこういうことなのだと思います。古い建物を活かしながら、新しく魅力を増している。古いものと新しいもの、その対比に多くの方が興味を持たれているんだと思います。特に都会の人はこういう古い家に対する憧れがあるのかもしれません。『こんな家に住んでみたい』とよく言われましたね。でも、『いや、それは無理やで』と(笑)。『これを維持していくのは本当に大変ですよ』という話はよくしましたね」
1989年に直島国際キャンプ場がオープンして以来、直島町民として30年以上に渡ってベネッセアートサイト直島の活動を見守ってきた西さん。多くの来島者が訪れるようになったことで、島民の方の意識が少しずつ変わってきたと西さんは感じています。
「福武理事長が『直島の本当の意味での主役は島民だ』とよく言われますが、若い人、お年寄り、外国人含めて、いろんな人と接することで、島民の方が明るくなる、生きがいができる、やる気が出る、それによって島民のほうが『主役』になるのだと思います。昔と比べると、この本村もキレイになりました。庭もみなさんキチンと手入れされるし、家の前もキレイに掃除してますしね。昔は空き缶なんかのゴミが落ちていることもあったんですが、そういうのも一切ないですね。そういう面で良い緊張感が生まれたというか、キレイにして来島者を迎えたいとか、そういう感覚が島民のみなさんにあるんだと思います」
「運営スタッフの旧家に対する思い入れが『水』展の成功のポイント」
3年前に東京から直島に移住してきた佐々木紀子さんは、直島のさまざまな建築、設備、アート作品の保全、維持管理を行う「合同会社直島アートユニット」を旦那さんと経営しています。「水」展の運営は、この直島アートユニットに委託されています。地元の方と交流ができる場にしたいという「水」展の構想を最初に聞いた時、佐々木さんは親しい島民の方に相談をもちかけたそうです。その方々がさらに他の島民を紹介してくださったことで、西さんをはじめとする運営スタッフが集まりました。
「私としては、運営スタッフの方々のこの旧家に対する思い入れ、子どもの頃からここで遊んでいたという愛着が『水』展の成功を支える一番のポイントだろうなと常々思っていました。もちろん、昔からあるものに着目して新しいものを加えるという三分一さんの設計やコンセプト自体、素晴らしいものなのですが、この施設には『人』の要素も欠かせません。直島に3年しか住んでいない私の言葉と、本村で長く生活をしてこられた方が暮らしの実感を交えて語る言葉とでは、ゲストの方に伝わるものは大きく違うということを芸術祭の会期を通じて感じましたね」
瀬戸内国際芸術祭2019の会期中には、海外からの来島者もたくさん「水」展を訪れました。海外の方に英語で「水」展を説明したり、直島を案内したりするために、佐々木さんは中学校の時に使っていた英語辞書を引っ張り出してきて勉強し直したと言います。英語だけでなく、歴史や建築のことも自分で調べたそうです。そんな勉強の時間が苦にならないほど、「水」展を訪れた方々との交流が楽しかったと佐々木さんは振り返ります。
「英語だけでなく、歴史や建築のことも勉強しました。『壁がないのは、壊れたからですか?』と尋ねる方もいました。生まれた時からマンションに住んでいる若い人にとっては、神棚とか障子とか日本家屋の建具が面白いみたいで、そういう方々との交流が私にとってはすごく楽しかったですね。勉強する中で直島の暮らしの魅力にも改めて気づくことができ、本当に幸せな時間をここで過ごすことができました」
瀬戸内国際芸術祭2019会期中限定で公開していた「水」展は、2020年6月20日(土)より「The Naoshima Plan 『水』」として常設の展示施設として公開されます(詳しい開館情報は開館カレンダーをご参照ください)。引き続き、直島の町民の方々が施設の運営を行いますので、ご来館の際には「水」展の建築についてはもちろん、直島全体の魅力などについても運営スタッフの方々へ気軽に尋ねてみてください。
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