小豆島の小さな集落の記憶、
福田のものがたりを「影絵」で届けたい

小豆島・福田地区は島の北東に位置し、瀬戸内の海に面しながら山々に囲まれ、人と文化の交流点として栄えてきた港町です。しかし、産業の近代化を境目に衰退を迎え、現在は高齢化により過疎が進む地区となりました。この地域に拠点を置く福武ハウスでは、「祭り」や「踊り」など、地域固有の文化や人々の生き方に焦点を当て、さまざなテーマで地域の新たな魅力を伝えるためのプログラムを実施しています。今回は、豊かな自然と文化に育まれた集落の地域資源を顕在化するために、音楽家で影絵師の川村亘平斎さんと福田在住の親子が一緒に行った、福田の地域を題材とした影絵の上演企画についてご報告します。
世代間の交流を通して、まちの魅力を再発見する
今回、企画に参加したのは福田在住の親子合わせて14名。新型コロナウイルス感染拡大の影響もありましたが、春から講師の川村さんとオンラインでの会議やインタビューを重ね、準備を進めてきました。小学1年生から高校生、30代~40代の参加者が3つのチームに分かれ、それぞれ「島の昔の仕事」、「海でとれたもの」、「山でとれたもの」をテーマに、福田に住む70代~90代のお年寄の方へインタビューを行いました。

インタビューを進めていると、今は森になってしまった耕作放棄地には「ヤマモモ」、埋め立てられた浜には「いりこ」、神社の木には子どもたちを脅かす「お化け」、集落にはノミを叩く「石工の音」、料亭からは三味線が聴こえていたこと、舞台では住民が演じる「浄瑠璃」が行われていたこと等、かつて福田の集落にあった鮮やかな記憶をたくさん発見することができました。

人から人を辿り、集められた集落の記憶は、川村さんの手によって、福田に暮らす「メスウナギ」「ウミガメ」「ヘビ」の3者が語る3つのエピソードに編集され、世代を超えた地域の魅力を伝える新たなものがたり『福田うみやまこばなし』が完成しました。
ものがたりを通じて、多様性がつながる地域づくりを目指す

今回、福田で影絵に挑戦したのは、影絵はインドネシアのワヤン・クリットをはじめ、タイ、カンボジアや中国など、アジアの多くの地域で親しまれ、神話やおとぎ話など、地域性が色濃く反映されている表現だからです。アジア圏に共通する「影絵」という文化を使い、福田地区だけでなくアジア地域の様々な文化や暮らしを紹介することによって、福武ハウスが地域住民や来訪者、アーティストなど、多様な価値観を持つ人たちが交流する場になり、福田の豊かな自然と文化に育まれた集落の魅力が過去から現在へ、そして未来へ引き継ぐような仕組みを作りたいと考えています。


しかし、残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響により、地域恒例の行事も中止や延期となり、予定していた『福田うみやまこばなし』の上演も公開できず、映像収録のみとなってしまいました。それだけでなく、毎年福田に来てくれたアジアのパートナーはもちろん、友達や親戚に会うために里帰りすることも難しく、世界中が離れ離れのようになってしまいました。
ものがたりでコミュニティをつなぐ
こうした状況の中、私たちは福田で作った影絵ものがたりを使って、人やコミュニティとの「つながり」を感じられる時間や場所をつくりたいと考えました。今は会うことができないたくさんの人に『福田うみやまこばなし』を届けることで、人と人、人とコミュニティの間を緩やかにつなぎ、別々の場所で暮らしていても、自分の好きなコミュニティとの「つながり」を感じて、安心して生きられる時間を作ることを目指します。
今回の影絵の収録後、参加者や地域の方からも大きな反響をいただき、2021年3月に改めてライブイベントを実施することにしました。影絵ものがたりを通じて福田の豊かな自然に囲まれながら、地域の魅力に直接触れてもらう機会を作りたいと思います。また、収録のみになった3つのものがりの映像を公開するとともに、より多くの人にものがたりを伝えられるよう、クラウドファンディングに挑戦します。このプロジェクトを支援してくださる方に、参加者の描いた影絵人形からデザインされたはがきをお届けし、手紙として大切な人へメッセージとともに、福田の集落を彩るものがたりを送っていただけます。今は会うことができなくても、いずれまたこの場所に帰ってきてもらえるよう、人々と福田というコミュニティをものがたりを介してつなげたいと思います。

※クラウドファンディングの詳細は下記のリンクよりご確認ください。
・今は会えない人に島の物語を伝えたい!小豆島福田で影絵を上演! - クラウドファンディング READYFOR
ブログ記事ー一覧

2021.01.15
寄稿「bene(よく)+ esse(生きる)を考える場所」神藤 秀人
「"よく生きる"とは何かを考える場所」は、決して「一人称」でないだろう。島のため、島の人のため、島に来る人のために、必要な場所なのだ。はっきりとした目的があり、そこに向けて成長してきた「ベネッセアートサイト直島」は、世界中の全ての人に、生きることの素晴らしさを伝える活動である。そして、それは今の香川県の「らしさ」の根元でもあり、日本を代表する"デザイン"だと僕は思う。記事を読む

2021.01.13
島の暮らしとともに
今年90歳を迎える直島町民の田中春樹さんは、1990年代からベネッセアートサイト直島の活動に関わってくださっています。今回の記事では、約30年に渡るベネッセアートサイト直島でのエピソードについて田中さんに振り返っていただきました。記事を読む

2021.01.06
寄稿「感じるためのレッスン」島貫 泰介
じつを言えば、私が直島にやってきたのは今回が初めてなのだ。そう告白すると、アートに興味のあるほとんどの人は驚く。私もまさかこれまで一度も来る機会を持たず、初の来島がコロナ禍で揺れるこの2020年になるとは思ってもいなかったのだから同感だ。だがこのタイミングで来れたことは恩寵だったと思う。記事を読む

2020.12.24
ベネッセハウス お客様の声(2020年11月)
年の瀬も近づき直島は一段と寒さを増してきました。ベネッセハウスには、旅行客で賑わう春・夏ではなく、冬を選んでお越しくださるお客様がたくさんいらっしゃいます。今月も2020年11月にご宿泊いただいたホテルゲストの方からの感想の一部をご紹介します。記事を読む

2020.12.21
寄稿「二つの出あい、島々で」大西 若人
人やモノとの出あいには、2種類ある。新鮮な出あいと、懐かしい出あいだ。 今という時代を鮮やかに切り取る現代美術を見る場合、当然のことながら、前者が多い。誰もが、新鮮な出あいを求めて、現代美術を見にゆくといってもいい。 ただ、例外もある。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」といった里山や島々で開催される芸術祭もその一つといえるだろう。記事を読む

2020.12.15
寄稿「安藤建築で杉本作品を堪能する、
世界で唯一の宿泊体験。」石田 潤
自然光が差し込む朝と深淵な闇に包まれる夜では、空間そして作品ともに全く異なる顔を見せ、特にしんと静まり返った夜に見る杉本作品と安藤建築の競演は格別だった。考えてみれば、この2人のコラボレーション自体が、世界でここ一つのものではないだろうか。記事を読む