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「今、瀬戸内から宇沢弘文
~自然・アートから考える社会的共通資本~」レポート

新型コロナウイルス感染症をきっかけに、世界が大きく変化をしている現在、私たち人間は、いかに生きるべきなのか。自然と人の心を大切にした経済学者、宇沢弘文氏(1928~2014年)が提唱した社会的共通資本を基に、これからの社会の在り方や「よく生きる」を考えるオンラインフォーラム「今、瀬戸内から宇沢弘文~自然・アートから考える社会的共通資本~」が、2020年7月19日に宇沢国際学館主催でベネッセアートサイト直島にて開催されました。

「社会的共通資本」とは、Social Common Capitalともいわれ、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会の安定的な維持を可能にする自然環境と社会的装置」のことで、これを社会共通の財産とする考え方です。

宇沢弘文は「人間の心があって初めて経済は動いていく」「豊かな社会欠かせないものは金銭に換算できないし、ましてや利益を貪る対象としてはならない」「社会的共通資本の理論はいま社会に向き合う我々が実践していくものである」と唱えています。

今回の記事では、このフォーラムのサマリーと当日の映像を掲載します。

Introduction:
福武總一郎「ベネッセアートサイト直島 現代アートによる地域再生 人々を覚醒させ、地域を変貌させる現代美術の力!」

福武總一郎:株式会社ベネッセホールディングス 名誉顧問/公益財団法人 福武財団 理事長

ベネッセアートサイト直島のプロジェクトは、自然、アート、建築、そしてコミュニティの調和を大切にしてきた。美術館と自然、そして瀬戸内海が一体となった作品は、都会のホワイトキューブでは作ることができない。作品を観るために多くの人が訪れるようになったことで、直島は世界的にも認められる訪問地となり、島の人々は元気になり、活力を取り戻した。アートによる過疎地や農村の再生は、最近では中国の山東省でも導入され注目されている。経済至上主義の現在、経済発展が目的化しているが、あくまでも手段。目的は人々が幸せに生きること。そのためには文化がインフラになる。国や行政だけではなく、富を創造する企業こそが、もっと文化に力を入れるべきで、企業の価値も、株主価値だけではない価値も評価される必要がある。新自由主義が世界を跋扈する中、社会的共通資本の考えをもっと世界中に普及させていきたい。

Introduction:
渋澤健氏×占部まり氏「なぜいま社会的共通資本なのか」

渋澤健:シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役/コモンズ投信株式会社取締役会長
占部まり:宇沢国際学館代表取締役・内科医

「社会的共通資本」とは、自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の3つからなり、豊かな社会に欠かせないものを「社会的共通資本」として国や地域を守ろうという考えである。制度資本という中には、医療、教育があり、利益を求める対象にしていくと社会がゆがんでいく。逆に、それを守るような社会は人々が豊かに暮らせる。
これまでのわれわれの世界では、経済成長があることが前提であったが、果たして豊かな生活とは、GDPや株式投資のROEなどで測れるものなのか。今回のフォーラムでは「社会的共通資本」について考えていきたい。

Session 1:
鈴木寛氏×ドミニク・チェン氏×宮口あや氏「変革する社会と未来にひらく教育」

鈴木寛:東京大学・慶応義塾大学教授
ドミニク・チェン:博士(学際情報学)。特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事
宮口あや:イーサリアム財団 エグゼクティブ・ディレクター

20世紀の教育は、形式的平等主義。大量生産、大量流通、すべてが記号化され、ユニークネスが失われている。これからは公正な個別化が必要。子どもにとっての最善の学び、唯一無二をどれだけまわりが全力で支援出来るかが大切である。テクノロジーやデジタル化が加速し、あらゆるものが数値化していくが、近代化の影響による自然破壊や気候変動などの社会課題は、経済や物の豊かさでは測れない。数値主義に捉われないためには先入観を持たず、クリエイティビティの限界を作らず、いろんな分野のことを学べる環境を作ることが大事。アートの価値に正解はない。それに向き合う人と作品や表現との関係性の数だけ、新しい価値が生まれる。これからの教育は正しい答えを出すのではなく、正しい問い掛けをすることが大切である。

Session 2:
舩橋真俊氏×森田真生氏「とりまくものたちと生きる~生命・文化・科学~」

舩橋真俊:ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー/一般社団法人シネコカルチャー代表理事
森田真生:独立研究者

人類の繁栄を約束するはずの科学技術が自然破壊を生み出している。人口増加により、数百年で地球上の7割の生物種が絶滅し、約10億人が農業による砂漠化の影響を受ける。環境負荷を生んでいる農業自体を転換しない限り、人間は地球上では生きていけない。協生農法は、農業を情報産業化する試み。これからは、社会的共通資本をベースに、エコシステム、経済と自然資本との組み合わせ、再生産過程などスケーラビリティをもって再設計していけるかが課題。
自分たちが何者なのか、いかに生きるのか、いかに自分たちでないものに対してレスポンドしていくのか、想像力を大幅に更新していくことが大切。どんなシミュレーションにも描かれていない、未知の大きな感覚の変容を起こすことで、子孫に引き継いでいく世界を作れる可能性がある。その上で、サイエンスだけでなく、アートという存在は想像力を拡張し、自分たち以外への感覚を開いていく装置である。

Closing:
渋澤健氏×占部まり氏


このフォーラムを通じて、われわれが「社会的共通資本」という考えにどう向き合い、いかに次のアクションにつなげるのか。今、この地球上で起きていることや、もっと先の未来のことまで想像力を働かせることや、自分で決めている制約を外して、一歩を踏み出すことが重要である。最後に、李禹煥美術館の「無限門」を紹介したい。人によっては、「わかんない」と言うかもしれない。だけど、そこに「無限門」があるからこそ人が集まり、いろんなことを感じることが出来る。景色は変わっていないが、作品を設置することで、見えていなかった美しさが可視化できている。これからの時代、「わかんない」を拒否することなく、また思考停止することなく、よりオープンに、好奇心と想像力を活かせば見えないものが見えてくるかもしれない。今後、「社会的共通資本」がどのように拡がっていくのか期待したい。

宇沢弘文
1928年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学院に進み、特別研究生、スタンフォード大学経済学部助教授、カリフォルニア大学助教授を経て、シカゴ大学教授、東京大学経済学部教授。その後、新潟大学教授、中央大学教授、同志社大学社会的共通資本研究センター長などを歴任。2014年死去。年文化勲章受章。世界計量経済学会会長を務めた。

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