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Benesse Art Site Naoshima
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≪スラグブッダ88≫の作者、小沢剛氏が来島されました。

8月下旬、直島の南側、倉浦に位置する作品≪スラグブッダ88 ― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏≫(以下≪スラグブッダ88≫)の作者である小沢剛氏が来島され、作品の前で、ご自身が教鞭をとられる大学の学生やベネッセアートサイト直島のスタッフに向けてレクチャーをしてくださいました。

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作品の前でレクチャーをしてくださる小沢剛氏

直島では、小さな祠に収められた石の仏像や、「第○礼所」と書かれた小さな看板をあちこちで見かけますが、これは江戸時代初期に設置されたもので、「直島八十八箇所」と呼ばれています。≪スラグブッダ88≫は、直島の歴史に残る八十八箇所の仏像をモチーフに制作されました。直島の風景を形作る上でなくてはならない要素として、2006年に直島全体を舞台に開催された野外展「直島スタンダード2」注1を機に、八十八体の仏像すべての測量と調査が行われ、作品化されました。八十八体の仏像には、豊島で不法投棄された産業廃棄物を焼却処理した後に最終的に生じるスラグが素材として使われています。測量と写真をもとに模刻した仏像の型をとり、その型にスラグを流し込んで焼成した作品は、色やひびの入り方、デザインなど、一体一体の表情が異なります。瀬戸内の歴史における光と影の側面が伝わってくる作品です。

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≪スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏≫ 2006年 撮影:渡邊修
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一体一体、デザインや色など表情が異なるスラグブッダ 撮影:渡邊修

 今回のレクチャーで小沢氏はあらためて制作当時の動機や、制作・公開から十年が経った今、思うことを語ってくださいました。
 もともと学生時代から地蔵をモチーフにした≪地蔵建立≫注2という作品に取り組まれていた小沢氏。地蔵という存在については次のように語られています。
「≪地蔵建立≫と直島の作品の成り立ちはまったく違うもので、直島ではあくまで土地と向き合ったリサーチに基づいて制作しているんですが、≪地蔵建立≫の経験から地蔵に対する愛着はあったので、直島でも素直に地蔵というモチーフを選んだんだと思います。」「地蔵はそもそもは地蔵菩薩とはいうけれども、子供の守り神ともされていたり、関西の方では地蔵盆があります。地域によっては旅人の神様ともいわれていますよね。信仰している側は、神道も道教もアニミズムも混在していて、特別に仏教のことだけを意識しながら手を合わせているわけではないと思うんです。そういった多義性をもつという点が興味深いですよね。それにこんなに小さくて可愛らしい姿をしている。世界的にみてもこんな存在はなかなか無いと思います。」

 そして、≪スラグブッダ88≫には二つのコンセプトがあるといいます。
 「ひとつは直島八十八箇所巡りというこの島の江戸時代の歴史をかたどったということですね。なぜ石仏が八十八体あるのかというと、有名な四国八十八箇所巡りに由来するそうです。四国八十八箇所巡りは何日もかけてお遍路する大変なものです。それを江戸時代の人はコンパクトに模して全国各地に様々な巡礼地を作ったんですね。四国八十八箇所巡りよりも簡単に巡ることができ、同じだけの御利益があるというコンビニエンスな巡礼が流行していたわけです。
 そうした背景から直島にも江戸時代から八十八箇所に石仏が置かれていました。いくつかは時が経って無くなったり、欠けたりしたけれど、30年ほど前に町の有志が再制作させたり、いくつかの地蔵はその付近のコミュニティに根差した信仰の対象になっていたり、そうした歴史を一体一体調査しました。」

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直島八十八箇所の石仏

 「二つ目のコンセプトは、では石仏を何の材料でつくるかということです。
 直島の近くに豊島という島があります。今では瀬戸内国際芸術祭の会場にもなっているけど、1990年代は島に産業廃棄物が不法投棄されたことで全国的に知られていました。産廃業者によって島の一部に91万トンを超える国内最大級の不法投棄が行われていました。それで豊島の住民の方々が公害調停を申し立てて、長い闘いの末に、香川県が責任をもって処分することになりました。その産業廃棄物の中間処理施設が直島にあるんですよね。
 瀬戸内の島々は美しいけれども、もし負の歴史などもあるなら、そうした部分も見据えた上で作品を作りたいと思ってリサーチしたんです。その中でこの豊島の問題と直島の処理施設のことが見つかりました。これは戦後の歴史の影の部分として向かい合うべきと直感的に思いました。さらに調べると、処理施設では産廃を焼却・溶解する過程で様々な金属を抽出して再利用するんですけど、最後にスラグというカスが残ることが分かりました。そのスラグを使ってアートに昇華させていくのはどうかと思いました。地元の陶芸作家の協力もあって、スラグで地蔵の焼き物をつくることに成功して、素材に使うことにしました。」

 2006年に≪スラグブッダ88≫を制作・公開してから10年余りが経ち、豊島の産業廃棄物の直島での無害化処理が2017年6月に完了しました。このことについて小沢氏は次のように話します。
「無害化処理がようやく終わったことは良いのですが、その処理が終わったことで、負の歴史が無かったことになるのでなく、形になって残るということが重要なところではないでしょうか。スラグの山はまだ残っているし、廃棄物によって汚染された投棄跡地の地下水の浄化も終わっていません。美術はすぐに役に立つものでは無いですが、見方を変えれば色々な機能を引き出すことができると思っています。それは人の心であったり、潜在的な何かを引き出すスイッチになったり。
 この作品には、失われていこうとする歴史を、スラグブッダという形でぎゅっと濃縮して、忘却しないように語り続けられる機能として、ここに佇んでいてくれたらいいなと思っています。」

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 公開から10年の時が経ち、変わりゆく歴史の中で、忘れてはならない豊島と直島の史実をとどめる作品、≪スラグブッダ88 ― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏≫。ご来島の際にはぜひ足をお運びください。

屋外作品マップ19番

注1:直島スタンダード2
2006年~2007年、「芸術の日常化」をテーマに直島全体を会場として実施した。12組のアーティストが参加し、古い家屋や空き地、神社、瀬戸内海を見渡す岸壁などに、直島の人々の暮らしや歴史と深く関わる作品が制作・展示された。

注2:地蔵建立
1988年以降、小沢氏が日本国内、テヘラン、チベット、モスクワ、香港、中国、韓国などを旅行した際、手製の小さな地蔵を風景とともに収めた写真作品。世界80ヶ所以上で撮影されている。

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