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"芸術生態系"を考える

現代から生まれ、数世代先に続いていく文化をつくることを目指し、福武財団理事長の福武英明がとなえるビジョン"芸術生態系"。予防医学研究者である石川善樹氏、レストラン『レフェルヴェソンス』でシェフを務める生江史伸氏をお迎えし、福武英明との鼎談を通じて、"芸術生態系"を紐解いていきます。


写真:田中まこと

ベネッセアートサイト直島のビジョン"芸術生態系"とは


福武英明(以下、福武):ベネッセグループは"よく生きる"という理念を掲げており、これまで約40年間、ベネッセアートサイト直島の活動を続けてきましたが、アートや芸術というものは人類社会をより豊かにするものであると信じています。今後も数十年、数百年、この活動を続けていこうとすると、世代を超えた長い時間軸で考えていく必要があるのではないかと思っています。活動をより強固に長く続けようとすると、そこには適切な新陳代謝もありながら、様々な要素が複雑に絡んでいくのではないかと思っていて、アートをコアにしながら、どういうものを掛け合わせていくと、より豊かにできるのかを追究していくことが大切なのではと考えています。
これまで、自然、建築、アートでやってきましたが、そこに例えば衣食住など、重層的に重ねていくことで、アートの魅力、もしくは瀬戸内海の魅力がさらに引き出されていくと感じているとともに、継続性も高められるのではないかということです。
食という切り口でいうと、食を通してどうアートの価値を高められるかという考え方もあるかもしれません。また、食は地域性とも密に関係するので、地域性が高い食は、直島、豊島、犬島で活動をやってきた我々にとって、"この地"の意味性をさらに高めてくれるもの、また活動を継続していくための重要な要素になり得るのではとも思っています。


福武英明:公益財団法人福武財団 理事長、株式会社ベネッセホールディングス 取締役会長

生江史伸(以下、生江):今回、初めて直島に伺いましたが、アートは能動的に向き合うものなんだと感じました。作品を通して、自分がどう感じたかが投影され、それによって自分が理解できるというような、自分のうつし鏡になるということです。作家が生きた時代や人生、葛藤を理解し、作品に込められた意味を捉えようとする鑑賞方法もあると思いますが、いずれにせよ能動的にアートを鑑賞することで、鑑賞体験の価値が深まっていくのだと思います。
食が地域性を持つのはもちろんですが、生産者や作り手の思考やどういう思いで作っているのかということを能動的に捉えようとし、解釈をしながら食べる。すなわち、作り手と食べ手が、思考やアイデア、感情を共有していくような食べ方、体験ができるという点でも、アートと関連があるように思いますね。

石川善樹(以下、石川):いかに継続していくかという例でいくと、国は滅びても都市はつむがれていきますよね。その理由は、都市は文化や人のるつぼとして、適切な新陳代謝が行われていて、ゆるやかにアップデートされ続けているからだと思います。長い時間軸で活動を継続していくためには、適度な新陳代謝をいかに促進していくかがヒントになるのではないかと思いますね。


石川善樹:1981年生まれ。ハーバード大学公衆衛生大学院修了。予防医学研究者、博士として、「ウェルビーイングとは、何か」をテーマに研究を行う

福武:ただ、新陳代謝はゆるやかに行われるという側面もあるので、短期では結構わかりづらいと思うんです。特に衣食住など、生活に浸透していく要素を持っていると、浸透していけばいくほど気づかれない。だからこそ、継続を考えるうえでは生活インフラを考えることが重要な要素になってくると思っているので、アートを中心にしたインフラとはどういうものか、を考え続けたいと思っています。


"仲間"、"コミュニティ"をつくっていく


福武:アートをコアにしながらも、長い時間軸で様々な要素を重層的に重ねていくためには、その仲間やコミュニティをどうつくっていくのかということは考える必要があるのではないかと感じています。

石川:長い時間軸で取り組んでいくということを踏まえると、"いる、なる、する"というのが、考え方のひとつとしてあるかもしれません。その場に"いる"、仲間に"なる"、そして、一緒に何かを"する"、ということですね。大人というのは"する"から入りがちで、そうすると能力や価値観が合う/合わないで判断され、仲間になる確率がどんどん少なくなっていく。そして、その"する"が終わると、解散したり関係が希薄になったりする。
短期的なものは"する"から取り組んでもいいかもしれませんが、長い時間軸で見た時には、"いる"から始めていくというのはあるかもしれません。

福武:ベネッセアートサイト直島の活動も、地域に住む住民の方々がいて、応援してくださってきたからこそ、これまで約40年間続けてこられたというのもあります。
逆に、"する"が先行しすぎると、自分たちでコントロールしようとする意思が強まり、短期的にはいいかもしれませんが、持続しない。やっぱりそこには"いる"という要素が抜けてしまうのではないかと思いますね。そういう意味でも、この地に根付いて一緒に活動してくれる仲間を増やしていきたいですね。

石川:ベネッセハウス ミュージアムで、直島に関わったアーティストの写真が並んでいる展示がありましたが、この場所にはいろんな人が関わってきたのだということをすごく感じました。この島に長期間滞在しながら制作を行ったアーティストもいたということですが、"いる"という状況が良いかたちでつむがれてきているのかなと思います。


安齊重男 《ベネッセハウス アーティスト写真》 展示風景

活動を未来へつむいでいくには


福武:世代を超えた活動を長くやろうとしたときに、いかにして未来につないでいくか、ということも日々考えています。

石川:それこそサグラダ・ファミリアは、世代を超えて続いている活動だと思いますが、ガウディが設計図を残さずに亡くなり、残された人は「何をつくったらいいんだろうか?」となったときに、ブレイクスルーとなったのは、ガウディの設計や言葉を拠り所にして「ガウディは何を考えていたか?」を考えるのではなく、「ガウディの視線の先にあったものを見る」ということだったんです。ガウディと同じ方向を見ることによって、ガウディがどんな未来を作りたかったのか想像し、それを具現化してきた。世代を超えて活動を続けていくには、先人たちがその視線の先に"何を見ていたか、どういう未来を見据えていたか"を見ようとすることが大切なのではないでしょうか。

生江:どこまで、偶然性といった余白を残すかという視点もあるのではないかと思います。フランス人の文化人類学者でクロード・レヴィ=ストロースという人がいるのですが、彼は先住民族の観察から見出した思考形態をヨーロッパ的な科学的思考と対比させ、"野生の思考"と呼びました。あらかじめゴールを設定して設計図も描き、それをエンジニアリングしていく科学的方法論というのは、時として実はそれほど機能しない。
一方、先住民族は、日に日に変わる環境の中で、今自分たちができることは何なのかを考え、目の前にある材料をもとにその状況に適するものを自分たちで作りあげていく。状況や環境に応じて道具やくらしが進化し、その経験や試行錯誤が集団に取り込まれていくことで、生き残るための力になっていく。
私自身、そういった考え方をもっと評価してもいいんじゃないかと思っていて、新しい料理を考えだすときには、私が全部自分でレシピを設計し、出来上がったレシピをチームに配布するのではなく、各料理人に素材を渡し、その素材に向き合ってもらうようにしています。細かいディレクションはせず、素材に向き合ってもらうことで、期待をはるかに上回るソースが出てくることもあり、そういった偶然性を一皿に閉じ込めていくということを意識しています。


生江史伸:1973年生まれ。東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。レストラン『レフェルヴェソンス』シェフ。ミシュランガイド東京にて三つ星及びグリーンスターを獲得。持続可能なガストロノミーの実践や、食を通じた日本文化の振興にも取り組んでおり、2023年には文化庁長官表彰を受賞

福武:"芸術生態系"というビジョンも、方向性として理解できることでゆるやかな行動変容が促され、あえて明文化しすぎないものとすることで、主体性や偶然性が期待できるようなものがいいなという思いのもと掲げています。
ベネッセアートサイト直島の活動を数百年続けていくことができれば、私は間違いなく世界に誇るべき新しい芸術文化になると確信しています。アートをコアにしながら、いろんな仲間と活動を行うことで、直島、豊島、犬島を中心とした瀬戸内海全体の価値や文化度が高まり、ひいては社会が豊かになっていくことを目指して、これからも取り組んでいきたいと思います。

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