特別企画【後編】「アートと出会うための旅があります」かしゆか(Perfume)
かしゆかさんに瀬戸内のアートを巡った旅についてお話を聴かせていただきました。後編は豊島と犬島を巡ったエピソード。※前編はこちら
"全部を理解しようなんて思わないこと。知識ばかり求めないこと。感覚で楽しんでいけば、ずっと忘れられない出会いが"音楽アーティストとして最前線で活躍されるかしゆかさん。瀬戸内のアートとの出会いがどんな影響を与えたのでしょうか。
「知識ではなく、感覚で見ることを大切にしたい」
2日目は豊島と犬島に行きました。実は豊島美術館がいちばん好きかもしれません。靴を脱いで中に入って、誰も音を立てない。
事前にあえて調べたりしませんでした。教えてくれた人が、「この美術館、好きだと思うよ」って言ってくれただけで。実際行って見たら、ほんとうに好きで、何時間もいたくなるようなところ。どの季節に行っても、どの天気に行ってもきっといいだろうな、楽しめるだろうなと思いました。
──建物は西沢立衛さん。その中にある内藤礼さんの《母型》という作品ですね。
作品に入る体験というのはあまりないのでそれも楽しかったですね。水がプププと湧いてきて、その水が集まり、その重さでなだらかな傾斜に沿って流れていく様はずっと見ていられます。ふと、見上げると、細いリボンが風に揺られている、それだけでもときめきます。その要素だけで作品として成り立っているのもすごいし、しかもその作品があの建築全体で展開している規模感にも感動します。作品と一体化できているという実感です。
──豊島ではほかにも?
豊島横尾館にも行きました。横尾忠則さんの世界観とかはあまり見慣れていないのですが、横尾さんの作品のパワー。爆発的と言ったらいいのでしょうか、作品にたくさんの色があって、こちらを飲み込もうとする力というか。豊島美術館の内藤礼さんのような静かな作品と対照的でいろいろな作品があっておもしろいと思いました。
豊島にはそれ以外にもさらに作品があって、行ってみたいところもあるんですが、一度にはまわりきれません。だから、また来ようと思える楽しさがあると感じています。船の時間は決まっているし、予定を詰め込んで、もしも1本でも乗り遅れたら、すべての計画が崩れてしまいますからね。
──さらに犬島にも行かれたそうですね。
はい。犬島精錬所美術館を見ました。説明もなく中に入って、ひとりでボーッとできて、おもしろかったですね
犬島「家プロジェクト」も巡って、名和晃平さんのとかも良かったです。名和さんって、あのガラスのビーズを使った作品は知っていて、そのイメージが強かったんですがこういう作品(犬島「家プロジェクト」F邸 :Biota (Fauna/Flora) )もあるんだって思いました。
小牟田悠介さんの展示も見ました。部屋の中を斜めに仕切った壁が立てられていて、そこに鏡が貼ってあって、その前にやはり反射し回転するオブジェがある。それがまわりの風景を映しつつ、陽が入るときは反射してきれいなんです(犬島「家プロジェクト」I邸 小牟田悠介「プレーンミラー」「リバース」現在、展示終了)。いぜん、小牟田さんの別の作品で、飛行機の展開図みたいなのをステンレスで作っているのを見る機会があって、それがきっかけになって好きなアーティストになったんです。
あと、荒神明香さんの花の作品もきれいでかわいかったですね。(犬島「家プロジェクト」A邸 荒神明香「リフレクトゥ」2013 現在、展示終了)。印象に残っています。
──作品に向き合うときのアドバイスなどありますか?
作品を前にして、まず感覚的に好きか好きじゃないかと感じてから、説明を読んだ方がいいのではと思います。これは美術館とかに限らず、自分で作品を買うようにもなって、より感じていることです。作品とか、モノとかを見て、「かわいい」って思えるかどうか。その作品自体はいわゆる「かわいい」ものではないんですが、この「かわいい」というのは自分の心がときめくものに対する想いなんですね。「愛しい」と思う気持ちと言ったらいいのでしょうか。私はその感覚を大事にしています。
作品自体の意図がどういうものかというよりも、自分の側の感覚で決める。嫌いというものは無いんですけど、その作品を見て、ときめくかときめかないか、みたいに感じて楽しんでいます。
たとえば、豊島美術館も何によってどうやって、どういう理由で出来ていて、どういう意味を持っているかというよりも、自分が作品を体感して、その空間が居心地いいかどうか、空気感が好きとか、そういうことを最優先にしているのです。ジェームズ・タレルの作品が好きなのも同じ理由ですね。
私はわりと目から入る情報が好きなので、最初に入ってきた感覚がいちばん純粋なものとして作品を楽しめてるのだと思います。だから、須田悦弘さんの作品を見たときも彼がどんな積み重ねをしてきたかとか、その作品の意図はなんなのかはわからなくても、あの場が好きで、そのあともずっと須田さんの作品のことが忘れられなくて、東京に戻ってきてからもどうしたらあの作品に会えるだろうとか考えてる。自分の感覚に従って、忘れないもの、ずっと残り続けるもの。そこに自分の好きなものが見えてくる気がします。
全部を理解して吸収しようとすると、知識だけになってしまうけれども、感覚で楽しんでいると、あのとき見たあれだけは忘れられないというものが残り続けます。それが本当に好きだということでしょう。アート作品を前にしたとき、そういう気持ちを持っておけば、ずっとシンプルに自分の好きなものを楽しんでいける気がします。
──出会ってときめいて、それが忘れられない。すてきな関係です。
そしてその縁が発展していくこと。そもそも、小牟田悠介さんの、最初に出会った作品が好きになって、そして、『直島もいいよ、小牟田さんの作品もあるよ。行ってみたら』と教えてくれた人がいて、それが直島に行くきっかけとなりました。そこからまた世界が広がっていったんです。
──島内の体験が与えてくれた影響とか、ありますでしょうか?
自分自身、ライブパフォーマンスとか仕事をする上で、受け取り手の自由ということを思いました。もちろん伝えたいメッセージはありますし、自分たちなりにストーリーを組んでライブとか作品をつくっているけれど、受け取り手の自由というものがあって、強要しなくていいというか、説明しすぎなくていいのかなというのは思います。
自分の作品のこと、頑張って言葉にしなきゃって、インタビューとかアンケートで書いたりすることはあるんですが、なんかもう言葉じゃなくて自由でいいじゃん、みたいな感じはアートと関わってから思うようになりました。
最初、アートを知ったときも、友だちに「この作品ってどういう意味?」って聞いてたけど、「作家さんの意図があってできてるわけだけど、そこまでそこは重要じゃない」って言われてから、そうか、私はこう感じた、でいいんだって思えたことで、自分のライブに来てくれるお客さんにも同じようにそう思ってもらえたらいいんだっていう気持ちで仕事に臨めるようになりました。
本当はもっとこう伝わってほしいのにって思わなくなったというか。そうか、そういう見方があるんだって。いろいろな角度から見てもらえることの方がよりその作品がおもしろくなるというか。自分たちが見てほしい角度だけで伝わるだけではもったいない。だから多角的に多くの人に楽しんでもらいたいと思えるようになったというのはありますね。
(取材・文=鈴木 芳雄)
かしゆかかしゆか
3人組音楽ユニットPerfumeのメンバー。2023年4月29日に大阪城ホールで開催のライブイベント「FM802 SPECIAL LIVE 紀陽銀行 presents REQUESTAGE 2023」に出演。6月にはスペインの音楽フェス「Primavera Sound 2023 Barcelona Madrid」に出演。また、初の大規模衣装展「Perfume Costume Museum」が兵庫県立美術館にて9月9日から開幕。「P.T.A.」発足15周年を記念したファンクラブツアーも9月21日より開催。
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