直島会議2025
《マルコ・ポーロの忘れ物》から
直島新美術館へーアジア現代アート
と1995-2025
今から30年前の1995年、ベネッセは社名変更に際し、その名称と離島でのアート活動を広く世界に知らせるべく、世界で最も重要な現代アートの祭典の場であるヴェネツィア・ビエンナーレにて展覧会を開催しました(注:「トランスカルチャー展」国際交流基金と福武学術文化振興財団の共催)。《マルコ・ポーロの忘れ物》とは、アーティストの蔡國強が、同展のために制作展示した、かつて多くの文物を西欧にもたらしたマルコ・ポーロが持ち帰らなかったものとして、天と人の秩序を示す東洋の宇宙観や生命観をヴェネツィアに届けるプロジェクトで、同展に併せて設立された第一回ベネッセ賞を受賞しました。 そして、2025年5月に開館した直島新美術館において、蔡國強は新たに大型インスタレーションを展示しました。
それを記念して、当時よりアジアの現代アートシーンの発展に深く携わってきた専門家を迎え、「離島から世界に発信する」というベネッセアートサイト直島の方向性の原点であり、それまで欧米が中心だった現代アートシーンにおけるアジアを含む非西洋圏のアートの台頭を象徴的に表すことになった同展および本作を起点に、登壇者それぞれの体験を通して、その変遷を振り返るとともに、国際的視座から直島新美術館発足の背景と今後の可能性などを探りました。
直島会議2025
《マルコ・ポーロの忘れ物》から
直島新美術館へーアジア現代アート
と1995-2025
今から30年前の1995年、ベネッセは社名変更に際し、その名称と離島でのアート活動を広く世界に知らせるべく、世界で最も重要な現代アートの祭典の場であるヴェネツィア・ビエンナーレにて展覧会を開催しました(注:「トランスカルチャー展」国際交流基金と福武学術文化振興財団の共催)。《マルコ・ポーロの忘れ物》とは、アーティストの蔡國強が、同展のために制作展示した、かつて多くの文物を西欧にもたらしたマルコ・ポーロが持ち帰らなかったものとして、天と人の秩序を示す東洋の宇宙観や生命観をヴェネツィアに届けるプロジェクトで、同展に併せて設立された第一回ベネッセ賞を受賞しました。 そして、2025年5月に開館した直島新美術館において、蔡國強は新たに大型インスタレーションを展示しました。
それを記念して、当時よりアジアの現代アートシーンの発展に深く携わってきた専門家を迎え、「離島から世界に発信する」というベネッセアートサイト直島の方向性の原点であり、それまで欧米が中心だった現代アートシーンにおけるアジアを含む非西洋圏のアートの台頭を象徴的に表すことになった同展および本作を起点に、登壇者それぞれの体験を通して、その変遷を振り返るとともに、国際的視座から直島新美術館発足の背景と今後の可能性などを探りました。
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1. イントロダクション1 三木あき子
イントロダクション1 三木あき子
三木あき子(以下:三木):
直島新美術館館長の三木あき子と申します。2025年5月に開館した直島新美術館は、直島につくられた新たな美術館であるだけでなく、「アート・建築・自然・コミュニティの融合」というテーマのもと、ベネッセアートサイト直島の活動拠点である直島・豊島・犬島の3島において、複数の美術館やアート施設によって形成されている美術館群のさらなる発展のかたちとなることを目指しています。ベネッセハウス ミュージアムや地中美術館で展示されているのは、どちらかというと欧米の作品が中心ですが、直島新美術館はアジアの現代アートを中心に展示します。ですから、ベネッセアートサイト直島における美術館群全体としては、それぞれの美術館の特徴がより明確化され、より多様な表現に触れることができるようになると思います。
また、これまでのベネッセアートサイト直島は、恒久展示作品が多かったのですが、直島新美術館では、ゆるやかに展示替えを行い、またワークショップやトークなどのパブリック・プログラムを開催することで、この場所が人々の出会いや交流の場となるようにしたいと考えています。そうした考えから、1992年から2004年まで開催していた、美術と建築、社会との関わりを論じ合うシンポジウム「直島会議」を、直島新美術館の開館を機に再開することにしました。
今回はプレ的な位置付けとして直島新美術館関連で「《マルコ・ポーロの忘れ物》から直島新美術館へ―アジア現代アート1995-2025」という題を設定しました。《マルコ・ポーロの忘れ物》は、1995年に国際交流基金との協働でヴェネツィア・ビエンナーレにおいて開催された「トランスカルチャー」展で、直島新美術館にも作品が展示されている蔡國強さんが制作し、第1回ベネッセ賞を受賞した作品です。「トランスカルチャー」展は、国際的なアート界において、アジアなどの非西洋圏のアートの台頭をシンボリックに示した展覧会と捉えられています。当時、直島はあまり多くの人には知られていませんでしたが、福武總一郎名誉理事長のアートを通じて離島から世界にメッセージを発信するという意志に基づき、世界の現代アートの中心であるヴェネツィア・ビエンナーレで展覧会を行うことになりました。そして今、ヴェネツィアという欧米中心のアートの場所にアジアの作品が展示されること自体が珍しい時代だった頃から30年の時を経て、かつて無名の島だった直島には世界中から人々が集まるようになりました。また、アジアの現代アートシーンもこの30年の間に大きく変容しました。アジアの多くの国々が経済的に発展し、美術館が開館し、ビエンナーレもアジアの各地で開催されるようになりました。そのような経緯をふまえ、直島新美術館の開館に際して、本日は当時からアジアの現代アートの発展に関わってきた皆さんにお集まりいただきました。
本日の登壇者であるアピナン・ポーサヤーナンさんとスハーニャ・ラフェルさんのお二人が現在ベースとしていらっしゃるバンコクと香港は、特にこの30年の間に多くの変化を経験した場所と言えるかもしれません。本日はこの30年のアジアの現代アートを取り巻く状況の変化等についてそれぞれの立場から語り合い、共有することができればと考えています。
アピナン・ポーサヤーナンさんは、バンコク・アート・ビエンナーレの最高責任者兼芸術監督をされています。アピナンさんは、タイにおける先駆的なビデオ・アーティストであり、チュラロンコン大学で教鞭をとり、大学のギャラリーの展覧会を企画、そして90年代にはニューヨークのアジア・ソサエティでアジアに関する展覧会を多く企画されました。その後、タイの文化省に現代美術部門を設立、民間主導のタパナ・シリヴァダナバクディの支援のもとに立ち上げられたバンコク・アート・ビエンナーレの開催に主導的な役割を担われた、言ってみれば、タイの現代アート界を築いてきた方です。
そして、スハーニャ・ラフェルさんは香港のM+の館長でいらっしゃいます。スハーニャさんは、オーストラリアのアジア・パシフィック・トリエンナーレ(APT)の運営をしているクイーンズランド州立美術館でお仕事をされた後、シドニーのニュー・サウスウェールズ州立美術館の副館長を務め、その後、M+の館長になられました。90年代は日本だけではなくオーストラリアもアジアの現代アートの発展に積極的に寄与する活動をしていたのですが、スハーニャさんはその中心にいらっしゃった方です。
ディスカッションのモデレーターを務めてくださる帆足亜紀さんは、現在、横浜美術館国際グループ兼学芸グループグループ長、横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター補佐をされています。帆足さんも長くアジアの現代アートに関わられ、国際交流基金にアセアン文化センター、アジアセンターというのが90年代にあったのですが、帆足さんはそこにも関わられていたので、私たち4名には90年代のアジアの現代アートの黎明期からそれぞれ関わってきたという共通点があります。
冒頭にお話ししました「トランスカルチャー」展は、南條史生さん、デーナ・フリース=ハンセン、私がキュレーションしベネッセコーポレーション主体で行われた展覧会です。この展覧会に合わせて「ベネッセ賞」が創設され、その第1回の受賞者が蔡國強さんです。「トランスカルチャー」展は、冷戦構造崩壊後、文化多元主義が台頭するような時代において、文化の多様性を前提に異なる文化やアイデンティティを持つ者同士のコミュニケーションをテーマにした展覧会でした。そしてヴェネツィア・ビエンナーレで授与していたベネッセ賞は、2016年からシンガポール・ビエンナーレへと移行し、そのようなアジアへの意識の流れが直島新美術館の開館にもつながっています。
登壇者プロフィール
アピナン・ポーサヤーナン
(バンコク・アート・ビエンナーレ最高責任者兼芸術監督)
Apinan Poshyananda
アピナン・ポーサヤーナン
(バンコク・アート・ビエンナーレ最高責任者兼芸術監督)
Apinan Poshyananda
タイ文化省「現代美術と文化」事務局長、文化振興部局長、常任秘書。タイのアーティストのためのシルパトーン賞とアートファンドを創設。ヴェネツィア・ビエンナーレ(2003、2005、2007年)のタイ館、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(1993、1996年)などの国際展など多くの企画を手掛ける。ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポールの委員会メンバーを歴任。タイ・ビバレッジ株式会社のアドバイザー、ワン・バンコクの芸術文化委員会のメンバーも務める。
スハーニャ・ラフェル
(M+館長)
Suhanya Raffel
スハーニャ・ラフェル
(M+館長)
Suhanya Raffel
オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で副館長兼コレクション担当ディレクター(2013-2016年)、クイーンズランド州立美術館 /近代美術館では館長代理などを歴任(1994-2013年)。 アジア太平洋地域の現代美術コレクションの構築に尽力し、2002年よりアジア・パシフィック・トリエンナーレを主導。国際美術館会議(CIMAM)で2016年から理事、2023年より会長に就任。
三木あき子
(直島新美術館館長/ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター)
Miki Akiko
三木あき子
(直島新美術館館長/ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター)
Miki Akiko
パレ・ド・トーキョー(パリ)チーフ&シニア・キュレーター(2000-2014年)、ヨコハマトリエンナーレ(2011年 アーティスティックディレクター、2017年コ・ディレクター)等を歴任。台北ビエンナーレ(1998年)、バンコク・アート・ビエンナーレ(2024年)等の国際展や、バービカン・アート・ギャラリー(ロンドン)、台北市立美術館、韓国国立現代美術館、森美術館、横浜美術館、京都市京セラ美術館等世界各地の主要美術館にて多くの企画を手掛ける。
モデレーター
帆足亜紀
(横浜美術館国際グループ兼学芸グループ グループ長、横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター補佐)
Hoashi Aki
モデレーター
帆足亜紀
(横浜美術館国際グループ兼学芸グループ グループ長、横浜トリエンナーレ組織委員会総合ディレクター補佐)
Hoashi Aki
シティ大学(ロンドン)にて博物館・美術館運営修士号取得後、1996年よりフリーのコーディネーターとして、国際交流基金のアジア地域の美術交流事(1997-2010年)や茨城県のアーティスト・イン・レジデンスの運営(2003-2007年)などに携わる。2010年より横浜トリエンナーレ組織委員会事務局に入り、第4回(2011年)以降の横浜トリエンナーレに携わる。2016年より横浜美術館所属となり、現在に至る。