クリスチャン・ボルタンスキー氏 逝去
2021年7月14日、作家クリスチャン・ボルタンスキー氏が76歳で逝去いたしました。
1944年パリに生まれ、映像、写真、絵画、彫刻、マルチメディアインスタレーションなど、多彩な表現方法で「生と死」の問題を扱いました。自身の過去の再現を試みるほか、ビスケット缶、キャンドル、また何千枚もの写真、古着、名前などを用いて、無名の個人を記憶に留め、人間存在の重要さと儚さ、消滅を表現する多くの作品を発表しました。
2010年に「心臓音のアーカイブ」、2016年に「ささやきの森」を豊島にて公開し、ベネッセアートサイト直島の活動に多大な貢献をしてくださいました。
「心臓音のアーカイブ」にはおよそ74,000件以上の心臓音が保存・収集され、「ささやきの森」には訪れた方の大切な人の名前が470個以上の風鈴に記され森の中で静かな音を奏でています。
二つの作品は完成したものではなく、これからも訪れる人と関係を作りながら豊島に在り続けます。
クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」ハートルーム(撮影:久家靖秀)
私がこの世を去り、私の名前を皆すっかり忘れてしまうときが来るといいと思っています。それでもなお、心臓音を登録しに人々が来続けるようになってほしいと。こうして、新たな巡礼が生まれるのです。――クリスチャン・ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー「ささやきの森」(撮影:市川靖史)
私が興味を持っているのは、神話をつくることです。神話は、人間や、人間がつくった芸術作品よりも長く生き続けます。
2016年7月18日 「ささやきの森」アーティストトークにて
"よく生きる"とは
若くあることに固執することでもなく
より長く生きようとすることでもない
人間の誕生から死に至るまでの自然のサイクルを受け入れることだ
我々の前には生きた人がある 後には生まれ来る人がある
大切なのはトランスミッション(伝達)の心だ
人は人の記憶の中でしか蘇らない
心臓音のアーカイブ ブックレットより
謹んで哀悼の意を捧げますとともに、ご遺族の皆様に心よりお悔やみ申し上げます。
ベネッセアートサイト直島