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アーティストin 六区 2016
vol.1 飯山由貴「生きている百物語」

現代社会とそれぞれの方法で向き合う3人のアーティスト、飯山由貴、丹羽良徳、片山真理を招聘し、昨年夏から秋にかけて宮浦ギャラリー六区において行われた企画「アーティスト in 六区」。2015年から行われたリサーチの成果が、瀬戸内国際芸術祭2016参加企画「アーティスト in 六区 2016」として、春、夏、秋と3つに分かれた会期ごとに発表されています。

芸術祭春会期(2016年3月20日~4月17日)には、飯山由貴「生きている百物語」が公開されました。

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エントランスに置かれた、岩礁のように穴だらけになった巨大な発泡スチロールの塊と、ベニヤ板に記された2つのテキスト。ここから体験は始まります。

「うしろを振り返ってみる」
「あなたが不思議な体験について聞いたからだけど、不思議の定義とは何かってことよ 合理的な観点から言えば、不思議とは合理的な観点で説明できないこと、と言えるわね もちろんそこには、愛とか そういうものも 不思議のうちに含まれるんだろうけど」

エントランスから続く木製のスロープは、「会津さざえ堂」を模した回廊状の展示空間となっており、飯山が集めた66の「不思議な話」が散りばめられます。中央には3面スクリーンの映像空間。無人島に捨てられた猫を20年来世話し続けている男性の行為を記録した映像を中心に、それを両義的に解釈するように、両サイドには瀬戸内の島々の風景や直島に関する記事が集められたスクラップブックを背景としながら2つの神話についての映像が流れます。

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少しかすれた文字でベニヤ板の上に描かれた「不思議な話」が、ぼんやりと光る白熱灯の灯りに照らされ、絵馬や立札のようにランダムに配されている
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中央のスクリーンは、ある無人島に捨てられた猫を20年来世話し続けている島の男性が、その体験と自らの死生観について語った言葉が、字幕のみで提示される
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両側のスクリーンは、中央のスクリーンと同期して交互に映像が流れる。右スクリーンは、飯山や猫を世話し続けている男性が撮影した映像を背景に、アイヌの神話「猫の神様に育てられた少年」のアイヌ語による朗読が流れる
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左スクリーンでは、島に住む男性が制作したスクラップブックを背景に、横浜のあるギリシャ料理店の店主と飯山が交わした、ギリシャ神話の登場人物シーシュポスなどについての会話が流れる

飯山は、ネットオークション等で収集した古いスクラップブックや、精神疾患を抱えた家族の一人など、自身の周囲にいる人物との対話・交流などを通じて、個人が持つ価値観や思想、体験、そこから導き出される様々な行為などとの「出会い」を着想の原点とし、関連する社会状況や歴史的事象をリサーチしながら更に自身の解釈などを重ね合わせていくことで、個人の思いや行為を多角的に捉え、個人の内面と社会とのつながりについて考察するインスタレーションを制作しています。

昨年8月27日~9月3日にかけて直島を初めて訪れた飯山は、まず、直島の民話や歴史についてのヒアリング、島の福祉施設訪問等からリサーチを開始。島に言い伝えられてきた民話や、島の近代史、医療や福祉の状況など直島という場所をめぐるパブリックな状況について明らかにする一方、宮浦ギャラリー六区において自身が収集したスクラップブックを公開し、島の人々のお宅を訪ねながら新たに島内でスクラップブックやアルバムの収集を実施しています。

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リサーチの中で自らの「不思議な体験」について話す2人の女性に出会った飯山は、その体験談に触発され、訪れる先々で出会った人々に「これまでに、不思議な体験や、変なできごとはありましたか?」と問いを投げかけていくことを始めます。一見唐突に見えるこの質問に対し、問いかけられた人々は、幻覚や心霊現象に類する話や、人間の不合理さや理不尽さに直面した話、ある人が見れば不思議でもなんでもない話、例えば瀬戸内海ではもはや珍しくなくなった「イノシシは島から島へ海を泳いで渡る」、など様々な答えを返します。こうして集められた不思議な話は、リサーチの過程で見つかったスクラップブックなどともに、言葉と映像によるインスタレーション作品として結実しました。

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展示空間の回廊の途中には、訪れた鑑賞者自身が自らの「不思議な話」を綴ることのできるノートがおかれ、「百物語」と題された通りに様々な人々による語りが重層的に重なり合う仕掛けによって、会期中に来場者の手で新たな「不思議な話」が加わっている

こうした一連の企画の最後を締めくくったのが、展示最終日に行われたアーティストトーク。飯山自身によって作品制作のプロセスが語られ、トーク後の茶話会では、企画に関わった島の人々と島を訪れた人々が、思い思いに自らの体験を語りあう場面も。今回の作品に対する飯山の思いに、参加者の感想や参加者自身のもつ"不思議な話"が折り重なり、普段は誰しもが個々の内面に秘めてしまうような体験談が共有される場となりました。

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普段は聞こえてこない人々の声、取るに足らないと思われがちな話、嘘だと思われるのが嫌で内に秘めている思い。飯山はそこに耳を傾け、ささやかな形で目に見えるものにしています。こうして彼女の視点を通して表された、瀬戸内の島の暮らしや島を往来する人々の声と物語は、現在では「アートの島」として有名になった直島の、あるいは瀬戸内国際芸術祭によって注目を浴びる瀬戸内の島々の、一見しただけでは見えない部分にそっと息づいているものであるようにも見えます。

完成されたように見えるものの背後にある、様々な出来事や、人々の感情の動き。それらは、美しいばかりではなく、不条理であることもあり、心の襞の奥深くに隠れていた偏見や思い込みを映し出してしまうこともあります。しかしながら、こうした人の心の襞に思いがけず触れたとき、私たちは、少しの痛みとともに自らの偏見や思い込みにも気付かされ、これまで持っていた価値観の見直しを図られることになります。それは、飯山が創作の原動力を得る大きなきっかけとなっている「人との出会い」の根幹にあるものと言っても良いでしょう。

アーティストトークの場で寄せられた、「『不思議な話』やスクラップブックなどは何かの断片であると思うが、こうした断片を組み合わせて作品を作るのはなぜなのか」という参加者からの質問に対し、飯山はこう答えています。

「100人の人が同じひとつのものを見るのではなく、作品を見てくれた人々が、全てを見ることはできなくても、そこにある断片的なものから、自分なりの物語をつくっていってもらえたらと思う。その断片の中のどれかが、人それぞれの価値観や人生の経験のストックと共振すると良いと思う。」

隠されているものに思いを馳せ、ばらばらになっている言葉や事象の断片から、自分なりの物語を組み立てていくということ――世界の多様さに接していくためのある一つの方法を、《生きている百物語》は、示唆しているのかもしれません。

宮浦ギャラリー六区は、瀬戸内国際芸術祭2016会期中、春、夏、秋とそれぞれ異なる作家によって、全く異なる空間へと変容していきます。しかしながらその中で共通しているのは、各作家が、普段は見えてこない直島、直島に関わる人々の姿を「作品」という形で活写しているということにあります。

現在夏会期中に展示している丹羽良徳、秋会期に続く片山真理、それぞれが描き出す直島の人々の姿を、ぜひ宮浦ギャラリー六区にてご覧ください。

撮影:加藤健(1~4枚目)、加瀬健太郎(8~11枚目)

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